反撃能力の保有「相手に攻撃を思いとどまらせる抑止力となる」岸田首相会見12月16日(全文1)
軍事と非軍事、平時と有事の境目が曖昧に
率直に申し上げて、現状は十分ではありません。新たにどのような能力が必要なのか、3つ具体例を挙げたいと思います。1つ目は反撃能力の保有です。これまで構築してきたミサイル防衛体制の重要性は変わりません。しかし、極超音速核兵器や変則軌道で飛翔するミサイルなど、ミサイル技術は急速に進化をしています。また、一度に大量のミサイルを発射する飽和攻撃の可能性もあります。こうした厳しい環境において、相手に攻撃を思いとどまらせる抑止力となる反撃能力は今後、不可欠となる能力です。 2つ目は宇宙、サイバー、電磁波等の新たな領域への対応です。軍事と非軍事、平時と有事の境目が曖昧になり、ハイブリッド戦が展開され、グレーゾーン事態が恒常的に生起している厳しい安全保障環境において、宇宙、サイバー、電磁波等の新たな領域でも、わが国の能力を量・質両面で強化していきます。 3つ目は南西地域の防衛体制の強化です。安全保障環境の変化に即して、南西地域の陸上自衛隊の中核となる部隊を倍増するとともに、日本全国から部隊を迅速に展開するための輸送機や輸送船舶を増強します。これは、万一有事が発生した場合の国民保護の観点からも重要です。さらに、尖閣諸島を守るための海上保安庁の能力増強や、防衛大臣による海保の統制要領を含む、自衛隊との連携強化といった取り組みも進めていきます。
総合的な防衛体制を強化
こうした取り組みをはじめ弾薬等の充実、十分な整備費の確保、隊員の処遇改善などを含め、今後5年間で43兆円程度の防衛力整備計画を実行します。計画の着実な実行を通じて自衛隊の抑止力、対処力を向上させることで、武力攻撃そのものの可能性を低下させることができます。また、防衛力だけでなく、総合的な国力を活用し、わが国を全方位でシームレスに守っていきます。このため海上保安庁の能力強化、経済安全保障政策の促進など、政府横断で早急に取り組みます。そして、これらの取り組みも踏まえ、防衛力の抜本的強化を補完するものとして、研究開発や公共インフラ整備に取り組むなど、総合的な防衛体制を強化します。 以上の防衛力の抜本的強化と、それを補完する取り組みを併せて、令和9年度には現在のGDPの2%に達することとなるよう、予算措置を講じてまいります。NATOをはじめ各国は安全保障環境を維持するために、経済力に応じた相応の防衛費を支出する姿勢を示しており、こうした同盟国、同志国等との連携も踏まえ、令和9年度に向け、取り組みを加速してまいります。 5年間掛けて強化する防衛力は、令和9年度以降も将来に向かって維持・強化していかなければなりません。そのためには裏付けとなる、毎年度約4兆円の安定した財源が不可欠です。このため、私はこの春の通常国会から防衛力強化の内容、予算、財源、この3つを本年末に一体的に決め、国民に明確にお示しするとの方針を一貫して申し上げてまいりました。安定的な財源として、財務大臣に対し、まずは歳出削減、剰余金、税外収入の活用など、ありとあらゆる努力、検討を行うよう言明をいたしました。結果として必要となる財源の約4分の3は歳出改革等の努力で賄う道筋ができました。残りの約4分の1の1兆円強については、さまざまな議論がありました。 私は内閣総理大臣として、国民の命、暮らし、事業を守るために防衛力を抜本強化していく、そのための裏付けとなる安定財源は将来世代に先送りすることなく、今を生きるわれわれが将来世代への責任として対応すべきものと考えました。また、防衛力を抜本的に強化するということは、端的に申し上げれば戦闘機やミサイルを購入するということです。これを借金で賄うということが本当に良いのか、自問自答を重ね、やはり安定的な財源を確保すべきであると考えました。