日銀・黒田総裁会見10月29日(全文3完)実体経済と株価の乖離はバブルではない
追加対応がないと2%に引き上げられないと考えているのか
毎日新聞:毎日新聞の浅川と申します。2%の物価目標の関連でお尋ねです。新型コロナウイルスの影響で、4月の段階で総裁は、モメンタムが失われた、と発言されていると思うのですが、物価安定目標は事実上、今、棚上げして危機モードで対応しているというのが実態かと思うのですけれど、これの対応策が終われば仕切り直しで2%に向けた取り組みに移れるとお考えなのか、それと展望レポートでは2022年度でも1%に満たない見通しになってますけれど、追加対応しないと2%に引き上げられないと考えていますか。それとも自然と引き上がっていくイメージを持たれていますか。お願いします。 黒田:2%の物価安定目標に向けたモメンタムが失われていたということはそのとおりで、ただ、だからじゃあどうするかと言われても、あの時点ではあくまでもコロナウイルス対応のために3本柱でやっていくということが最も必要であると。それは企業の資金繰り支援であり、金融資本市場の安定化であるということであります。 ただ、そういうことを通じて経済活動をサポートし、2%の物価安定の目標に向けた道筋にやがて復帰していくということを期待していることは事実なんですけども、2%の物価安定目標というのは依然維持しておりますので、今、当面、3本柱で企業の資金繰りと金融資本市場の安定化ということを前面に出した政策を取っておりますけれども、コロナウイルス感染症の影響が和らいでいくにつれて、もっと前面に経済活動の刺激と2%の物価安定目標に向けた道筋をより明確にしていくというふうに、金融政策のウエートが動いていくとは思うんですね。 ただ現時点ではやはりコロナウイルス感染症への対応というのが何よりも重要であり、しかもそれが中長期的に見て経済活動が正常化し、2%の物価安定目標に向けて動いていく基礎になるというふうに考えております。
実体経済とマーケットの乖離はなぜ起きているのか
日本経済新聞:日経新聞の【シミズ 00:57:28】と申します。よろしくお願いいたします。この春以降、コロナ問題の危機で世界的に経済の弱い動きが広がる中で、株価を中心としたマーケットはわりと順調に回復してきたような印象があって、実体経済とマーケットの乖離が起きているような印象もあります。このマーケットの動きについてはコロナ問題が解決したさとの経済の急回復を織り込んでいるとか、コロナ後の世界ではIT技術によって生産性が回復していくといった現象を織り込んでいる、いわば、非常に正当化される動きだという見方もある一方で、日銀をはじめとする世界の中央銀行による潤沢な資金供給による、流動性を背景としたある種のバブルだという見方もあるかと思います。ここ数日の欧米の株価はそうした見方が、ある意味では正しいのかなという危うさも示唆しているようにみますが、この春以降の実体経済とマーケットの乖離がなぜ起きているのか、あるいはそれが持続的なのか、その辺り、総裁はどのようにご覧になっているかを教えていただけますでしょうか。 黒田:為替や株の動きの先行きをうんぬんするっていうのはあまり適切でないと思いますけれども、日米欧の株価の動きを特にPERなどで見ますと、日欧の株価は歴史的な平均値のPERからそんなに外れてないわけですけれども、確かに米国の株価は、米国の歴史的な平均のPERよりもかなり高いところまで来ていたと。それが若干調整したということは事実なんですけれども、その解釈についても米国の人などは、全ての企業のPERが歴史的な平均値よりも非常に高くなって、つまり企業収益よりも株価の上がり方のほうが激しいということになっているわけではないと。一部のITとかそういう関係の企業のPERが非常に高いところに来ていると。それが全体としてのPERを押し上げているということだというんですね。 そうなると当該IT関係の企業、企業名を言うわけにもいきませんが、そういうところを見ると、確かにこのところ非常に売り上げも伸び、みんな将来の収益期待が高まっているところでもあるようにも見えるんですね。だからそういうふうに見ると、別に歴史的な平均よりも高いけども、バブルでないというのかもしれませんし。 しかしそうはいってもいろんな状況があって、平均があるところからかなり離れて、全体の平均値が高くなっているということも事実だというふうに言う人もいますので、なんとも申し上げられないということに尽きますから、単純に経済が非常に大きく落ち込んだのに株が順調なのは実態と離れている、バブルじゃないかというのはちょっと正しくないのかなと。