サウジ、イラン、トルコ……蠢き出した地域の大国 トランプ外交で変動する中東の力学
中ロにとってのチャンス
このようにアメリカの関与が低下するにつれ、中東の秩序が流動化する状況をチャンスとみているのが、ロシアと中国です。中ロによるアプローチが特に目立つのが、反アメリカで一致するイランです。両国は2015年の核合意にも参加しており、アメリカによる一方的な離脱を批判してきました。 ロシアは7月末にイランとの間で軍事協力を強化することに合意。また、中国は9月に25年間で4000億ドルをイランの油田開発に投資することで合意しましたが、そこには中国企業の権益を警備するための5000人の中国軍の駐留も含まれています。さらに、12月27日にはイラン、ロシア、中国の海軍がオマーン湾で合同軍事演習を実施し、アメリカをけん制しました。 ロシアと中国にとって、アメリカの制裁でイランが孤立すればするほど、アプローチを強めやすくなります。それはアメリカに対するイランの抵抗力を強めるもので、結果的に中東の緊張を長期化させる一因といえるでしょう。
トルコの独自路線を促すもの
同様のことは、トルコについてもいえます。トルコは北大西洋条約機構(NATO)に加盟するアメリカの同盟国ですが、エルドアン氏が実権を握った2000年代、人権問題などをめぐって関係が冷却化してきました。トランプ政権によるトルコ製の鉄鋼・アルミニウムに対する関税引き上げは、両国関係をさらに悪化させる一因にもなりました。 この背景のもと、トルコはアメリカと距離を置く方針を鮮明にしています。その象徴は、トルコが7月、ロシアの最新鋭地対空ミサイルS400を、アメリカの反対を無視して購入したことでした。さらに、アメリカによる関税引き上げで経済が停滞するにつれ、トルコでは中国の投資も活発化しています。 ただしイランと異なり、トルコはあくまでアメリカの同盟国で、アメリカのシリア撤退と連動したクルド攻撃にみられるように、状況次第でアメリカと気脈を通じることもあります。 しかし、トルコは単純にアメリカに協力するわけでなく、その基本方針はアメリカと中ロを天秤にかけることで独自路線を貫くことにあり、トランプ政権が「アメリカ第一」に傾いたことは、その傾向を強めさせたといえます。それは「平和の泉」作戦のように、地域の緊張をより高める不安定要素にもなり得るのです。