サウジ、イラン、トルコ……蠢き出した地域の大国 トランプ外交で変動する中東の力学
サウジアラビアの暴走はあるか
このように中ロが影響力を増す中、サウジアラビアは基本的にアメリカと密接な関係を維持しています。中東への関与を控えたいアメリカにとっても、「番人」として後を託す最有力候補はサウジです。トルコ国内にあるサウジ領事館でジャーナリストのジャマル・カショギ氏が殺害された事件で、トルコから批判が上がりながらも、アメリカ政府がサウジを擁護したことは、両国の緊密ぶりを象徴します。 そのサウジはアメリカ以上に反イラン的で、先述のようにイラン制裁を支援してきました。9月のフーシ派によるドローン攻撃の後、サウジなどスンニ派6か国はアメリカとともにイラン向け制裁を強化し、さらにサウジ海軍はアメリカ主導のペルシャ湾での警備活動に参加すると発表しました。 ただし、「コスト削減」を優先したいトランプ政権にとって、イラン制裁が実際の戦闘に発展すれば、元も子もありません。これに対して、イエメンなどで代理戦争を演じるサウジは、この機会にイランへのダメージをもっと大きくしようとします。アメリカがこれに引きずられれば、イラン制裁はより長期化し、それに比例して中ロの中東進出は加速しやすくなるとみられます。 つまり、サウジはアメリカの反イラン政策に便乗して、これをさらにエスカレートさせようとする傾向があるわけですが、それは結果的に、やはり中東の秩序を大きく揺るがす要因にもなり得るのです。 こうしてみたとき、良くも悪くも中東での存在感が大きいアメリカが軸足を動かしたことは、影響力を増そうとする地域の大国の動きを活発化させているといえます。それは中ロにとって、アメリカに対するビハインドを取り戻す好機でもあります。そんな中で飛び込んできたアメリカ軍によるイランのソレイマニ司令官殺害のニュース。地球上の原油の7割を埋蔵するといわれるこの地域の変動は、世界の秩序を揺るがす一つの震源地になるとみてよいでしょう。
----------------------------------------- ■六辻彰二(むつじ・しょうじ) 国際政治学者。博士(国際関係)。アフリカをメインフィールドに、幅広く国際政治を分析。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、東京女子大学などで教鞭をとる。著書に『世界の独裁者』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、『対立からわかる! 最新世界情勢』(成美堂出版)。その他、論文多数。Yahoo!ニュース個人オーサー