サウジ、イラン、トルコ……蠢き出した地域の大国 トランプ外交で変動する中東の力学
イラン制裁の強化は煙幕か
とはいえ、ただ中東から手を引いて「無責任」と批判されることは、「アメリカを再び偉大にする」と強調してきたトランプ大統領にとって受け入れられるものではありません。その観点からすると、2015年の「イラン核合意」から離脱してイラン制裁を再開したことは、中東からの撤退に煙幕を張る効果があったといえます。 2016年の大統領選挙で核合意からの離脱も公約に掲げたトランプ氏は、イランへの厳しい措置で「強いリーダー」を演出できます。その一方で、シリアでの軍事活動と異なり、イラン制裁はアメリカ兵が犠牲になるリスクが低く、さらに仮に原油価格が上昇しても、シェールオイルの生産でいまや世界屈指の産油国になったアメリカにとってダメージは小さくて済みます。 ただし、これもやはり地域の大国による裁量の余地を拡大させたのです。アメリカの制裁強化にあわせて、もともとイランとライバル関係にあるサウジアラビアはこれを積極的に支援する一方、イラン封じ込めのための独自の行動も加速させてきました。 日本ではあまり報じられませんが、2015年から続くイエメン内戦でサウジはスンニ派主導のイエメン政府を支援し、シーア派武装組織のフーシ派を援助するイランと「代理戦争」を演じてきました。イラン制裁が強化されるのと並行して、サウジはイエメンでの軍事活動をエスカレートさせ、民間人を巻き添えにする空爆なども増やしています。 8月3日、国連はアメリカなどがサウジ率いる有志連合諸国に提供している武器がこうした民間人の犠牲につながっていることを懸念する報告書を発表しました。
追い詰められるイランの綱渡り
このようにアメリカの中東撤退がサウジやトルコの活発化を促してきた一方、その副産物ともいえるイラン制裁の強化は、これに反発を強めるイランによる綱渡りに近い外交をも生みました。 イランのロウハニ大統領は9月4日、2015年の核合意で規制されていたウラン濃縮を再開すると発表。これは核合意の参加国でイラン制裁に批判的なフランスやドイツを仲裁に向かわせるための手段だったとみられます。 しかし、これにヨーロッパ諸国が目立った反応をみせない中、イランはウラン濃縮をエスカレートさせ、それにつれてヨーロッパ諸国はイランへの批判を強めるようになりました。こうした悪循環は、イランに支援されたイエメンのフーシ派が9月14日にサウジ東部のアブカイクなどにある油田をドローンで攻撃し、世界の原油市場の先行きに大きな不安が生まれたことで、さらに加速しました。 その結果、フランスのマクロン大統領は11月6日、イランのウラン濃縮が核合意に反したもので、新たな合意を形成する必要があると発言。歴史的な核合意はますます存亡の危機に向かうことになりました。