サウジ、イラン、トルコ……蠢き出した地域の大国 トランプ外交で変動する中東の力学
2020年の中東情勢は、イラン革命防衛隊の精鋭部隊「コッズ部隊」のソレイマニ司令官のアメリカ軍空爆による殺害という衝撃的なニュースでした。2019年も中東では、アメリカの「反イラン」政策と「シリア撤退」によって、戦争が懸念されるような危機的な状況が各地で生まれていました。2020年も世界の震源地になりそうな中東情勢を中心に、国際政治学者の六辻彰二氏に展望してもらいました 【写真】「トランプ外交」が生み出す対立と緊張 2019年国際ニュース振り返り
◇ 2019年の中東では、アメリカの撤退が鮮明になりました。このことはサウジアラビアやイラン、トルコなど「地域の大国」による活動の幅を広げてきましたが、結果的にこの地域をより流動的にもしています。中東の変動は世界全体の秩序がさらに揺らぐ前兆にもなりかねません。昨年の大きな出来事を振り返りながら、今年の中東と世界の行方を考えます。
中東から手を引きたいアメリカ
2019年の中東では、「アメリカ第一」を掲げるトランプ政権が、それ以前にも増して関与を控えることが目につきました。 その象徴は10月13日、アメリカ軍をシリアから撤退させると発表したことです。「コスト削減」を重視するトランプ大統領は、それが2016年大統領選挙の公約でもあったため、以前からシリア撤退に意欲をみせてきました。10月27日にイスラム過激派「イスラム国」(IS)指導者バグダディ容疑者の殺害を発表したこともまた、アメリカのシリア撤退を加速させる要因となりました。 ただしシリア撤退は、これまでシリア内戦の中でアメリカが支援してきたクルド人を見捨てるものであると同時に、トルコの軍事行動を活発化させました。 アメリカ軍撤退の発表と前後してトルコ軍は「平和の泉」と名付けられた作戦を発動。シリア領内に侵攻し、クルド人を中心とするシリア民主軍(SDF)への攻撃を開始したのです。これは国家を持たない最大の民族といわれ、トルコ国内でも分離独立運動を展開するクルド人がシリアで勢いを増すことにトルコが危機感を募らせた結果でしたが、シリアから手を引きたいアメリカはこれを事実上、後押ししたことになります。 トルコ軍は10月末にSDFとの停戦に合意しましたが、シリア政府からの反発を受けながらも、その後もシリア領内にとどまり続けています。