最高峰の高級時計の文字盤はなぜ「エナメル」なのか?【ハンドクラフト文字盤編】
腕時計選びでこだわるべきは、最も目につく「文字盤」。まさしく“時計の顔”だけあって、時計の印象を左右します。今回は、最高峰の高級時計に使われる「エナメル」をはじめとした、ハンドクラフト(職人の手仕事)によって作られる文字盤をまとめて紹介します。 デキる大人は知っている!? 「腕時計の基礎知識」
「エナメル」ほか、芸術的な職人技が光る「ハンドクラフト文字盤」を解説
文字盤は、“時計の顔”。だから、オトコの時計選びは何よりも文字盤にこだわるべし。とはいえ、文字盤の種類は多種多様です。そこで文字盤選びに欠かせない基礎知識と、色気のある“モテる顔”な文字盤選びのコツをお伝えしましょう。 第4回では、特に最高峰の高級時計に使われる「ハンドクラフト文字盤」を解説します。
高級時計、なかでも複雑時計は最高峰の時計職人(時計師)だけが組み立て・調整が可能で、“職人技の結晶”ともいえるメカニズムを備えています。そして、こうした時計には文字盤も中身にふさわしく高級なものをという考えから、最高峰の職人技を使ったものが多く使われます。それこそが、“文字盤の芸術品”ともいえるハンドクラフト文字盤です。 今回は、時計愛好家が「スゴイ!」「素晴らしい」と納得、感心する代表的なハンドクラフト文字盤の種類とその魅力についてお届けします。
釉薬を焼き付けて生み出される「エナメル文字盤」
極細の筆を使ってさまざまな色の釉薬を使い分けて何度も焼成する「エナメル細密画」と、黒や紺の暗いエナメル地に白などの明るい色を重ねて描く「グリザイユ・エナメル」の技法を組み合わせた、ヴァシュロン・コンスタンタン「“レ・ロワヨーム・アクアティック(水の王国)”」シリーズより「レ・キャビノティエ・ミニットリピーター・トゥールビヨン -フライング・ダッチマン(さまよえるオランダ人)-」の製作風景。ユニークピース。
ハンドクラフト文字盤の代表が「エナメル文字盤」。金、銀、銅などの金属にガラス質の釉薬を750~850℃という高温で何度も焼き付けたものです。エナメルは化学的に安定していて、鮮やかな色や深みのある輝きを備えながら、磁器と同様に数百年を経ても変わらない半永久的な美しさを誇ります。日本語では七宝(しっぽう)とも呼ばれます。 ただ、エナメルという言葉は、皮革の着色に使われるエナメル塗料や、ステンドグラスやガラス工芸での絵付けに使われる低温エナメル(600℃前後で焼成)にも使われるため、時計の文字盤に使われるエナメルは800℃前後で焼き付けを行うことから「高温エナメル」「グラン・フーエナメル」(フランス語で“偉大な火”という意味)とも呼ばれます。 この技術はスイスには16世紀頃にフランスから持ち込まれ、ジュネーブで発展しました。しかし20世紀になって一度は失われかけた貴重な技術でもあり、スイスでも現在、最高峰の職人はごくわずかしかいません。 また、グラン・フー・エナメル文字盤は製作に手間がかかるだけでなく、釉薬の焼き付け工程にも注意が必要です。釉薬の焼成温度は色によって違うため、色の違う釉薬を何種類も使い分ける文字盤では、釉薬ごとに何度も高温のオーブンで焼かなくてはなりません。その際に割れや欠けが起きることは珍しくなく、だからグラン・フー・エナメル文字盤の時計は高価で希少なのです。 さらには「ブラックエナメル文字盤」のように、単色でも製造が非常に難しいものも少なくありません。そういった理由から、現在でも各社がエナメル文字盤の技術開発に取り組んでいます。