最高峰の高級時計の文字盤はなぜ「エナメル」なのか?【ハンドクラフト文字盤編】
手作業で彫られる「ハンドエングレービング文字盤」
続いて、製作工程のすべてが手作業で、その多くが一点ものの文字盤が「ハンドエングレービング文字盤」。つまり、手彫りの彫刻加工で作られた文字盤です。 職人の手作りなので製作に長い時間がかかり、大量生産もできないため、この文字盤を使った時計は一品もの(ユニークピース)、あるいは数量限定生産や受注生産されるものがほとんどで、価格もそれだけに高価です。また、受注生産の場合は注文主の希望に応じてカスタマイズ可能なのが一般的です。世界で「本当にひとつだけ」の時計が欲しい人にとって、これは究極の文字盤といえるでしょう。
木を組み合わせて模様や絵を描く「マルケトリー文字盤」
フランス語の「マルケトリー」とは、地となる木を模様となる形にくり抜いて、そこにぴったりと違う木を嵌めていき、絵や模様を作る技法のこと。この技法を使った文字盤が「マルケトリー文字盤」です。日本語では「木象嵌」と言います。 天然石や鳥の羽根、花びらなど木以外の素材を使い、寄木細工の技法で作る場合も、時計の世界ではひとまとめに「マルケトリー」と呼んでいます。熟練した職人が時間をかけて手作りするため、この文字盤を使った時計は価格も高価で生産数もごくわずかです。
日本の伝統技術の結晶「蒔絵文字盤」「螺鈿文字盤」
漆黒の夜空に無数の星が流れる情景を、幅わずか0.2mmの貝片を漆の中に埋め込んだ螺鈿蒔絵で表現したモデル。文字盤の製作者は、世界的な漆芸家の田村一舟氏。「アートピースコレクション 螺鈿ダイヤル 限定モデル Ref.GCBY997」手巻き、SSケース、クロコダイルストラップ、ケース径37mm、日常生活防水(3気圧)。世界限定60本・製造終了
高級時計の文字盤として最後に紹介したいのが、日本伝統の装飾技法を使った「蒔絵文字盤」と「螺鈿文字盤」です。 まず蒔絵は、表面に漆で絵や模様を描き、その上から金粉や銀粉などの金属粉や色の付いた粉を蒔き付けて定着させる日本の伝統的な装飾技法のこと。 もうひとつの「螺鈿(螺鈿蒔絵)」も漆を使った日本伝統の装飾技法ですが、これは真珠母貝やその仲間の貝片(=螺鈿)を漆を塗った地の上に埋め込んだものです。貝片のひとつひとつが漆の中から浮かび上がるように見え、光の当たる角度が変わる度にさまざまな色に煌めきます。 どちらの文字盤も、控え目であると同時に華麗でもある、日本の美意識から生まれた特別なもの。まだ実物を見たことがない方は、ぜひ一度ご覧になることをオススメします。
文/渋谷康人