“あの動物たち”は「式神」、「ポポポポ~ン」の生みの親が語る公共広告の裏側 #あれから私は
「狙いどおり『ポポポポ~ン』は子どもたちに受け入れられ、学校でも活用されました。やはり、シンプルで耳に入りやすい面白いことばだったということが、印象深くした要因でしょう。クリエーターとしては、そこは大切な部分かなと今でも思っています」 アニメーションには、「あいさつ坊や」という少年と「あいさつガール」という少女のほか、10種類の動物たちが登場する。動物を起用したのには、どんな意図があったのだろうか。 「子どもにとって動物は、キャラクターとしてわかりやすいということもあるのですが、アイデアの根本的な部分を言うと、知らない人にあいさつをするのって、ちょっと勇気がいることですよね。そこを後押しして、そっと守ってくれるような……式神とか、守り神のようなものを思いついて、動物のキャラクターを設定したんです。魔法の呪文を唱えたら、ポンと出てくる動物の守り神。そんな、ファンタジーのイメージから生まれたんです」
繰り返される放送に“正直戸惑った”
子どもたちにあいさつの楽しさ、コミュニケーションの大切さを伝えるためにつくられた「あいさつの魔法。」。これが、震災後繰り返し流された事態を、若浜さんはどう受け止めたのだろうか。 「もちろん、まったく想像もしていませんでした。非常に戸惑ったというのが正直な気持ちです。企画意図はこれまで申し上げた通りで、そもそも災害のためにつくったCMではありません。企業CMの場合ならば、クライアントと相談をして、内容を変更するなどの介入がある程度可能になるのですが、ACの特性上、納品したらもう見守るしかない状況もあって、とても複雑でした。突然、私たちがつくったCMが驚く頻度で流れてくる。大量投下されることによって、何かネガティブな要素が上がってくるんじゃないか……そんな恐怖も感じました」 現在ACジャパンのHPには、広告への意見・要望フォームが用意されているが、当時はまだなかった。そのため、問い合わせの電話がACジャパンに殺到したという。 「賛否両論あったと聞いています。私たち制作者に直接届くことはなかったのですが、ネット上でも“CMが怖い”だとか“見ると(震災を)思い出す”とか、ネガティブな意見があって……。その事実は受け止めながらも、やはり残念なことだなと思います。当時『あいさつの魔法。』を見ていた年齢によって、印象はずいぶん違うんです。ネガティブに感じられたのは、やはり震災の恐ろしさを実感された方、主に大人なんですよね。逆に、当時5~6歳だった人たち、現在のティーンエージャーには、楽しい印象も残っていた、というんです。当時も『被災地でも子どもたちがみんなで歌っていたよ』と伝え聞いたりしました。彼らはまさに、私たちがメッセージのターゲットにした世代。ここに関しては、きちんと届いていたんだな、よかったな、と思っています」 捉え方の違いは、年齢のほか地域差もあるのではないか、と若浜さんは言う。 震災から半年ほど経った後、青森県八戸市の八戸三社大祭のお神輿に、「あいさつの魔法。」のキャラクターたちが乗せられたという。また、大分市の教育委員会はあいさつの啓発として、「あいさつの魔法。」を採用した。いずれもACジャパンの了承の下、無償提供されている。 「ちょっと今のコロナ禍にも似たような雰囲気で、八戸でも『震災の後にお祭りを行うのは不謹慎なのではないか』という意見があったらしいのですが、やっぱりみんなを元気づけるためにと開催されて、私も実際に“こんにちワン”たちが乗ったお神輿を現地へ見に行きました。このアイデアは地元の子どもたちから挙がり、創作も子どもたちの手でなされたと聞いて、とても感動しました」