吉田鋼太郎「優しさと知性に裏打ちされた強さを持っている人はカッコいい」
吉田 イギリスに“ハムレット役者”という言葉があるくらい、ハムレットは大変な役で、やれる役者が限られてるんです。台本をカットしなければ4時間半ぐらいかかる上演中、ハムレットは出ずっぱりなうえに、ものすごくハードなセリフを喋りますので、体力的な持続力と瞬発力に加えて、セリフを喋るためのブレスの技術が備わっていないと息が上がってしまいます。 今の俳優さんたちの中でも、柿澤くんは圧倒的にパワーがあるし、劇団四季で鍛え上げられた芝居の動きや滑舌といった基礎も素晴らしい。彼の体力と内に秘めた情熱はものすごいものがありますから、見たことがないハムレットをやってくれるはずです。ぜひ、期待していただきたいです。
ちょっと売れてきたからってお前、最近少し怠けてないか? という声がして
── ところで吉田さんは、近年は年に2、3本舞台をやりながら、ドラマや映画でも活躍され、おっさん同士の愛と真心を描いた「おっさんずラブ」(2016~)では“ヒロイン”役で大ブレイク。それまで硬派なイメージの強かった吉田さんが、田中圭さん演じる部下に恋するヒロイン的な部長役で幅広い層から支持されたことについてはどう感じていますか? 吉田 繰り返しになりますが、役者はみんな“いつか売れる”と密かに思っていますので、その流れでいえば、しめしめ(笑)、みたいな思いはあります。でも最初にお話をいただいた時は、どうやって演じていいかがまったく見えず、自分では想像もつかなかったので、決断までに時間を要しました。
── そうなんですね。最後には、なぜやろうと思われたのですか? 吉田 ハードルを受け入れたんですよね。迷いの過程では、頭の片隅で天使が、「ちょっと売れてきたからってお前、最近少し怠けてないか?」みたいなことを言うわけです。そして一方では、「無理しなくていい、やんなくていいって」と悪魔がささやく。でもやっぱり天使の、「ちゃんとやったほうがいいぞ、お前」という言葉のほうを聞いたんです。── 人生初ヒロインを演じて、新たな気づきはありましたか? 吉田 「おっさんずラブ」においては、田中圭くんが役柄の“はるたん”そのもののような人で、優しく気遣いができて、リーダーシップもあるし、何をやっても受けてくれる。彼のその受け芝居がなければ、僕のあの部長の芝居は絶対にできていないんです。 そしてそこに、はるたんのパートナー役の林遣都くんがいて。この3人の組み合わせが今思うと奇跡的で、それぞれのキャラクターが上手い具合に溶け合ったんでしょうね。僕らは微妙に尊敬しあっているし、微妙に「もうしょうがねぇな」とも思っていて、家族みたいな空気が流れているんです。他の現場だったら「ちょっとこの芝居、恥ずかしいからやめとこ」みたいに思っちゃうことも躊躇せずに全部やれるので、そこは大きいと思います。