ノーベル物理学賞「重力波の観測」は何の役に立つのか?
そもそも重力波観測の科学的意義は?
2015年9月のブラックホール合体からの初観測(発表は2016年2月)、続く複数回の観測によって「重力波天文学」という科学の新たな分野が開拓され、これまで電磁波では観測できなかった天体の情報が得られるようになりました。ブラックホールそのものの観測は重力波で初めて可能になり、これまでの想定よりも重いブラックホールが次々と見つかりました。 この成果は今後、宇宙の成り立ちを描く宇宙論や、宇宙に満ちていると考えられているにもかかわらずいまだに観測されていない暗黒物質の推定量に少なからず影響を与えることでしょう。
また、2017年8月には初めて中性子星合体からの重力波が観測されました(発表は10月)。中性子星とは、重さが足りずにブラックホールにならなかった天体のこと。中性子星合体のプロセスでは、まず2つの中性子星が回転しながらぐちゃっとつぶれる際に重力波を放ち、その後にガンマ線やX線、赤外線などを放出します。そのため、重力波やガンマ線を受信したことを合図に、世界各地の天文台がいっせいに信号の到来方向に向けられました。一つの天体イベントに対し、重力波、ガンマ線、X線、赤外線、可視光など、さまざま観測手段で情報を受信する「マルチメッセンジャー天文学」という観測手法が確立されたのです。重力波やガンマ線などそれぞれのメッセンジャーから得られる情報は異なるため、種類が多ければその分、天体の正体やプロセスの理解が進むことになります。 これだけでも、重力波観測が科学の発展に対して多くの貢献を期待されていることが感じられます。ですが、これらの成果を私たちの日常生活と直接結びつけて考えることはなかなかできません。では、重力波の観測は私たちとどうつながっているのでしょうか。
好奇心を満たしてくれる?
上に述べた科学的意義を聞いてどう感じましたか? 新しい情報を得て「なるほど!」と感じたり、まだ謎の一端を聞いて「もっと知りたい!」と思ったりしませんでしたか? こうした「もっと知りたい!」という感情は、漫画や映画などでストーリーの先を知りたいと思うのと似ていて、日常生活でも少なからず経験します。研究者や研究コミュニティの人が研究内容の面白さを伝えてくれれば、研究当事者ではない人も、好奇心をかき立てることがあるでしょう。