ノーベル物理学賞「重力波の観測」は何の役に立つのか？
微細な計測など産業への応用に期待も？
次に考えられる答えとして、「培った技術が近い将来に副次的に役立つ」ということが挙げられます。例えば、重力波の観測には「レーザー干渉計」という技術が使われています。その際には、地球と太陽の間の距離が水素原子1個分変化したことを測定できるくらいの非常に高い精度が求められます。これを可能にする最新のレーザー技術は、同じく微細な計測や微細な加工が必要とされる工業製品などの産業分野ですでに使われていて、今後の応用の広がりも期待されます。
将来的に人類の生活を支える基盤技術に？
初めての場所に行くとき、GPS（衛星利用測位システム＝グローバル・ポジショニング・システム）は私たちにとってなくてはならない身近な技術となっています。地表面と地球の上空にある人工衛星とでは地球の重力のわずかな違いにより時間の進み方が異なるため、その補正のためにアインシュタインの一般相対性理論が使われています。一般相対性理論は、一見、実用とはかけ離れたものに思えますが、その構築から100年もたたずに私たちの日常生活を支えるものとなっています。 重力波の初観測によって、一般相対性理論が正しいかどうかをより詳細に検証する準備が整いました。今後、データを集めていけば相対性理論にもほころびが見つかり、より完璧な重力理論を構築するための糸口となるかもしれません。そしてその新しい理論は、GPSのさらなる精度向上、またはもっと別の思いもかけない技術に応用される可能性があります。 今は観測するのがやっとである重力波も、長いタイムスケールで見れば、人類の生活を支える基盤技術を担う日が来るのかもしれません。
人類の知の財産を増やしてくれる？
ニュートリノの研究で2015年のノーベル物理学賞を受賞された梶田隆章博士（東大宇宙線研究所長）は、受賞時に自身の研究を「人類の知の地平線を拡大するような」意義があると述べられました。では、「知の地平線を拡大する」ことがどうして人類にとって重要なのでしょうか。 人類が有史以来「科学」によって体系化してきた知識はこの地球に暮らす全ての人類が共有している財産です。基本的には、人類が滅亡して後世への伝達手段を失わない限り、この財産を保有し続けることができます。 ときに、こうした知識は「宇宙の中で私たちはどういった存在なのか？」といった問いにヒントを与えてくれます。重力波を伴う初のマルチメッセンジャー天文学により、「金」や「ウラン」などの重い元素は中性子星の合体によって誕生した可能性が高いことがわかりました。指輪やネックレスなどの装飾品や携帯電話の部品、体内にも極微量に含まれる金という身近な物質がどこから来たかという知見は、私たちが世界を眺める新たな視点を与えてくれます。
