なぜドーピング潔白が証明された井岡一翔は「絶対に許せない」とJBCへ怒りをぶちまけたのか…検体を腐らせトップは辞任否定
アマチュア経験のある井岡は、オリンピックドーピングの規定に沿った厳格な検査を体験している。それだけに、今回、この杜撰な検体の管理実態を知らされ「驚いたというか、唖然。それがドーピング調べる流れなのかと、すごくビックリした」と困惑した。 またJBCはドーピング対応の手続き上でも重大なミスを犯している。JBC アンチ・ドーピング規定の第 7 条(2)には「B 検体で A 検体と異なる禁止物質が検出された場合、B 検体の一部を再検査可能の状態に保たなければならない」とあり、選手の再検査要請の権利が保障されているが、JBCは、2月中旬の時点で、すべての検査結果が出ていたにもかかわらず、同規定第 8 条(2)に基づく告知・聴聞、弁明の機会を井岡に与えず、しかも3 月 5 日に警察に“タレコミ”をした。結果、B検体を当局の捜査で押収され、すべて使い切られてしまい井岡の潔白証明の機会さえも喪失させてしまったのだ。 この時点では、検体が腐って禁止薬物が生成されたという知見はなく、A検体で出た大麻成分、B検体で出た「エフェドリン」が葛根湯などの風邪薬も含まれる一方で、覚せい剤の成分であることから、スポーツドーピングの禁止薬物と、刑法上の違法薬物の線引きもできずに警察に持ちこみ、B検体を失い、警察の指導で倫理委員会までストップするという失態を冒した。 永田理事長は、JBCが重ねた失態についての責任については「今後、ガバナンス、ドーピング委員会を開く。これからの取り組みが責任だと思う。ドーピングの在り方を正すのが先」と、論点をすり替えて、辞任など理事長自らが身を引き責任を取ることを「ありません」と否定した。 井岡は、これらのJBCの事後対応についても怒りを隠さない。 「謝罪? 正直、そんなもので許せないです。絶対に許せない。さきほど会見を見ていたが、僕に対しての誠意、関係者への誠意が伝わらなかった。被害者ぶる気持ちはないが、人生かけ、命をかけてやってきたこと、日本ボクシング界のため、盛り上げるためにやってきたことを(謝罪だけで)許せるのか。安心してまた年内試合ができるのか。正直、疑問です」 倫理委員会に提言されたようにドーピングに関するルールや組織のガバナンスなどを見直しても、今回のドーピング問題の対処を主導した永田理事長らJBCの幹部が、そのまま居残っていては組織自体の根本的な改革とはならない。重大な失態である警察に持ち込んだ経緯に関しても、答申書では「(3月1日の)準備会合においては警察への情報提供の是非についての結論は出なかった。その後、理事長及び執行理事は、弁護士 A が所属する法律事務所を訪問して、この点に関する助言を仰いだところ警察への情報提供を推奨する旨の 助言を受けたことから同月 5 日、警視庁富坂警察署を訪問して本件ドー ピング検査の結果等についての情報を提供した」とある。 だが、この日の会見で、永田理事長は「3月1日の準備委員会で警察に報告することに反対はありませんでした。全員がなんらかの形で報告すべきという結論でした」と、答申内容を否定。独断で動いたとの責任を回避するような発言をしている。このやりとりだけを見ても組織のトップとしての資格はない。井岡が、今後のJBC統括、運営に不信を抱くのも当然だろう。 井岡は、今回の問題で名誉を傷つけられただけでなく経済的なダメージも受けている。応援してもらっているスポンサーの撤退はないが、「経済損失? もちろんあります。服部先生にもお願いしているし(弁護士費用)、この場(会見場)を借りるのもそう。余分な出費、このことがなければ何もなかった」と訴えた。 JBCに損害賠償を請求できる案件だろうが、服部弁護士は、「今後、検討してくことなるが、今の時点では考えていない」という。 対戦相手の田中も井岡と同じく今回のドーピング騒動に振り回された“被害者”だ。