新しいeスポーツの生みの親は「ゲームが苦手」な理学療法士 年齢や性別、障がいの有無に関係なく楽しめる
これを機に、高齢者だけでなく、重度の障がいのある方へのeスポーツのサポートも始めた池田さん。 その後、プロゲーマーを目指し、「寝たきりYouTuberしんチャンネル」で情報発信をしている熊本市在住の小学生「しんちゃん」こと、西岡伸一郎さんとの出会いもあり、池田さんは重度障がい者のeスポーツへの参加も積極的に後押ししていくようになります。
eスポーツは誰でも楽しめるわけではない
ハッピーブレインとしてeスポーツのサポートを続けて、1年が経ちました。池田さんはeスポーツを高齢者施設や障がい者施設、病院のレクリエーションとして取り入れてはどうか、と考え始めます。 池田「施設のレクリエーションというと、折り紙、塗り絵、風船バレー、クイズ、体操といったアナログなものが一般的。これは僕が理学療法士になった20年前から変わっていません。 今はスマホを持つ高齢者もいて動画コンテンツも普及しているのに、施設のエンタメは20年前のまま。eスポーツでこの状況を解決したいと思いました」
しかし、eスポーツの可能性の大きさとともに、乗り越えなければならない問題もある、とわかってきました。まずはゲーム機やソフトの問題です。 池田「そもそも、『ぷよぷよ』のような市販のゲーム機は家庭用なので、施設に常設することはできないんです。メーカーはゲームソフトの商業目的利用も許可していません」 実際、ハッピーブレインが自治体の高齢者のeスポーツをサポートする際には、ゲーム機を持っていき、終わったら会社に持ち帰るようにしていました。 問題はほかにもありました。eスポーツはオンラインでつながった遠くの対戦相手とプレーできるのが魅力の1つです。しかし、ビジネスとしてオンライン対戦をする場合には不便な点がありました。 池田「何月何日の何時から何時までこのゲームでオンライン対戦します、とメーカーに事前申請して許諾をもらう必要があります。 今後、eスポーツのできる施設を増やしたとしても、対戦する施設同士で日時を合わせなければなりません。突発的なことが日常茶飯事で起こる施設のオペレーション上、市販のゲーム機を使ったオンライン対戦は現実的ではないと思いました」 ゲームそのものの難しさも問題でした。市販のゲームを使う既存のeスポーツは、ゲームがよほど得意な人でなければ、障がいがない人であっても難しいもの。高齢者や障がいのある方にとっては参加のハードルがさらに高くなります。
池田「練習して上達する高齢者や障がい者もいますが、複雑なゲームのルールを理解できない、小さなボタンやスイッチのあるコントローラーをうまく扱えない、という人もいます。 そういう人は、自分にはゲームは無理だとあきらめてしまう。誰もが楽しめる新しいeスポーツを目指すなら自分たちでつくるしかない、と考えるようになっていきました」 執筆・編集:横山瑠美 撮影:松永育美 デザイン:山口言悟(Gengo Design Studio)