新しいeスポーツの生みの親は「ゲームが苦手」な理学療法士 年齢や性別、障がいの有無に関係なく楽しめる
美里町の高齢者に「ぷよぷよ」を教え始める
熊本県美里町は、熊本県の中央部にある人口約9000人の自然豊かな町です。全国の地方自治体と同じく、人口減少と高齢化が進んでおり、町は高齢者の認知症予防や介護予防に力を入れたいと考えていました。
池田さんたちのプレゼンは成功し、2020年10月から美里町の「eスポーツでいい里づくり事業」をサポートすることに。その際、法人でなければ契約できないということで、池田さんは急遽、合同会社を設立します。池田さんが代表を務める会社、「ハッピーブレイン」の誕生です。 池田「“ハッピーブレイン”は、僕が独立前に勤めていたリハビリ施設の仲間といっしょに立ち上げたサークルの名前です。 『幸せ脳』という意味のとおり、脳卒中で入院した患者さんたちの退院後の生活を少しでも良くしたいとの思いで異業種交流会や勉強会をしていて、その名前を社名に使うことにしました」
こうして、美里町の高齢者に「ぷよぷよ」を教え始めた池田さん。 最初、美里町の人たちは「コンピューターゲームなんて私たちには無理」と言っていましたが、池田さんの指導のもと練習を続けた結果、次第にゲームの内容を理解してプレーできるようになりました。 池田「『脳トレになっていいね』『生きがいになる』と楽しんでくれる方がどんどん増えてきたんです。挨拶だけだった近所の人と立ち止まっての会話が生まれたり、孫とゲームの話題で盛り上がったりという変化もありました。 最初は乗り気でなかったのに、eスポーツでこんなに人は変わるのか、と驚きましたね」 そのうち、美里町の高齢者が「ぷよぷよ」に熱中していることが話題となり、メディアに取り上げられるように。 池田さんはスポーツ庁の「スポーツ推進プロジェクト」の一環で、熊本県内の合志市や山鹿市、南関町の施設でも高齢者がeスポーツを楽しむためのサポートをするようになります。
池田さんはこのころ、熊本県合志市在住の「寝たきり芸人」あそどっぐさんに声をかけました。 あそどっぐさんは筋力が徐々に低下する脊髄性筋萎縮症(SMA)で寝たきりの生活を送っています。芸人やYouTuberとして発信を続けているのでeスポーツにも興味があるのでは、と思ったといいます。 池田「あそどっぐさんは今、右手の親指と顔の表情以外動かせないのですが、中学生のころまでは車椅子に座れていて、そのときまではゲームをよくしていたのだそうです。 でも、高校生から寝たきりになり、指がほとんど動かなくなったのでゲームをするのをあきらめていたと話してくれました。 『今でもゲームをやれるものならやりたい』ということだったので、福祉用具をカスタマイズして親指でスイッチを押せるようにして、eスポーツを楽しめるようにしました」