AIでアート業界の権力構造を変革? アート資産を「客観的かつ透明性をもって」査定するサービスが台頭
不透明なアート作品の査定にAIを活用
これまで長い間、アート市場は口コミや評判、専門知識、そして「文脈」に左右されるアナログな世界だったと言える。その伝統的な業界構造は、一部の有力者たちが情報を独占することを許してきた。だが近年、NFTプラットフォーム、オークションのライブ配信、オンライン販売、資産の分有化など、新しいテクノロジーを使った取引が台頭し、かつての権力構造を覆しつつある。 その流れをさらに加速させそうなのがAI技術だ。最近登場したいくつかの新興企業は、過去の販売データや市場動向をAIで分析し、これまでより迅速かつ正確にアート作品の査定ができるよう専門家を補佐するサービスを打ち出している。 美術品鑑定の専門家であるキャロライン・テイラーは、オークションハウスやアートディーラーといった当事者が作品の査定に関与し、その資産価値を守ろうとするのを目の当たりにしてきた。メトロポリタン美術館や大手オークションハウス・フィリップスでのインターンシップからキャリアをスタートさせた彼女は、ドイツ銀行でキュレーターとして勤務した後に独立し、アートアドバイザーになった経歴を持つ。業界の現場を経験した彼女は、US版ARTnewsにこう語る。 「鑑定士になる過程でこの業界の慣行を知り、ショックを受けました。査定を請け負っている会社は作品販売にも関わっている。だから、何年か働いているうちに中立的な査定などあり得ないことがはっきり分かったのです」 その解決策として、テイラーは2021年にアプレイザル・ビューロー(Appraisal Bureau)を設立した。テクノロジーを駆使した中立的な査定を標榜する同社は、AI技術を取り入れた独自のソフトウェアプラットフォームを運営。このプラットフォームは鑑定士の右腕として、継続的かつ動的な評価で所蔵品の管理を手助けしてくれる。テイラーによると、ギャラリーは作品販売に関与しない企業とのデータ共有には積極的だという。アプレイザル・ビューローはその中立性によってギャラリーと強力な関係を築いているため、個人の販売データにアクセスすることができる。それが競合他社よりも正確な査定を可能にしているとテイラーは説明する。