AIでアート業界の権力構造を変革? アート資産を「客観的かつ透明性をもって」査定するサービスが台頭
重要なのは人間の専門知識とAIの分析力の掛け合わせ
やはりテクノロジーを活用した査定サービスを提供するARTDAIの設立者、ジェイミー・ラフルールは、アート作品の販売に携わっていた経歴を持つ。彼は2000年にニューハンプシャー州ポーツマスでバンクス・ギャラリーを立ち上げ、2017年にプライベートディーラーとなった。それと同じ時期にARTDAIを設立しているが、原動力となったのは、そこにシンプルかつ深いニーズがあると感じたからだ。大規模なアートコレクションを適切に管理するためには深い専門知識が必要で、そうしたサービスをスケールさせるのは一筋縄ではいかない。 当時のことをラフルールはこう語る。 「私はプライベートディーラーとして複数のクライアントの大規模コレクションを管理し、事実上のキュレーターのような役割も担っていましたが、自分だけでは業務をこなしきれないと思うことが度々ありました。全体ではなく、コレクションごとの管理対象作品が、それぞれ500から3000点もあるからです」 アートリーやアプレイザル・ビューローと同様、ARTDAIも人間が持つ専門知識とテクノロジーの効率性を融合させている。ラフルールが身をもって経験したように、コレクターや保険会社、金融機関などに代わってにコレクションを管理するには、美術品そのものに対する深い造詣だけでなく、膨大な量のデータを扱う能力も必要だ。そして、AIを活用したデータドリブンな洞察を提供するARTDAIの目的は、人間に取って代わることではなく、人間の仕事を補完することにある。 ARTDAIのモデルは、さまざまなソースから得られた膨大で混沌とした市場のローデータ(加工されていないデータ)を取り込み、独自のアルゴリズムを適用する。そうすることで、意味のある実用的な方法でコレクションを整理・分析するように設定されている。ラフルールいわく、同社のモデルは人間の判断に取って代わるのではなく、それを強化するものであり、市場の複雑さを十分に反映した評価を下すという。 ここで紹介した新興企業は、客観的なデータを用いてアート市場を開かれたものにしようとしている。つまり、アート作品の評価基準を誰もが理解できるようにしたいと考えているのだ。一方、オークションハウスは今のところ、まだそれを受け入れていないように見える。オークション大手3社に取材を試みたが、いずれの会社もAIを使った査定についてのコメントを避けている。 だがそれも時間の問題だろう。ARTDAI、アートリー、アプレイザル・ビューローの3社はすでに銀行や投資会社、保険会社、有力コレクターなどを顧客としている。いずれは1社が優位に立ち、瞬く間に市場を席巻するかもしれない。ちなみに、オンラインメディアPuckの記者、マリオン・マネカーは、2007年にまで遡る市場のマクロトレンドを分析した最近のコラムで、ARTDAIの実力に言及している。 AIはすでに来歴の追跡や市場予測、不正検知などの分野で広く活用されている。こうした用途でも、作品の査定と同様、企業が追求しているのはハイブリッドなアプローチ、つまりAIの分析力と人間の専門知識の補完的な組み合わせだ。
ARTnews JAPAN