AIでアート業界の権力構造を変革? アート資産を「客観的かつ透明性をもって」査定するサービスが台頭
AIを用いてアートの資産価値をデータで説明
アート作品とその来歴情報をブロックチェーンに記録・保存するアートリー(Artory)も、データに基づいた査定サービスを提供する企業だ。同社の設立者ナンネ・デキングはこう指摘する。 「最も重要なのは専門知識。データテクノロジー企業の設立者としてそう断言できます。AIが役に立つのは、適切な知識を持つ人がデータを見ている場合だけです」 アートリーが緊密に連携しているのが、美術品鑑定企業のウィンストン・アート・グループだ。同グループは、数十年にわたって蓄積された個人の売買データを使って査定と評価の正確性を高めている。このデータに加え、アートリーは公開オークションの販売データも利用。成長を続ける同社のデータセットには、現在4000件のオークションハウスで行われた4400万件以上の取引情報が含まれている。 2016年の立ち上げ以来、アートリーは15億ドル(直近の為替レートで約2200億円)に相当するアート作品や収集品の検証、ブロックチェーンへの記録、トークン化を行い、査定に利用できる膨大なデータを蓄積してきた。アートリーの社名を知らないアート関係者も、そのデータに接したことはあるかもしれない。同社のデータは、アートエコノミストのクレア・マッキャンドルーが執筆し、多くの関係者が参考にしているアート・バーゼルとUBSのグローバル・アート・マーケット・レポートにも使われているからだ。 アートリーやアプレイザル・ビューローの成功は、アートが超富裕層にとって人気のアセットクラス(株、債券、不動産など投資対象の種類)になっていることと関係している。昨年US版ARTnewsが報じたように、アートの世界と金融の世界はますます一体化しているのだ。アートリーのデキングはこう説明する。 「私の主な目的は、アート作品を所有している人々が手持ちの作品の価値を理解できるようにすること。今すぐそれを売却できるよう手助けをするということではなく、作品の持ち主や、彼らの資産を管理しているウェルス・アドバイザー、あるいはファイナンシャル・アドバイザーに対し、金融の世界でも通じる言葉でアートコレクションの価値についての確かな指針を与えることです」