【11月1日は「本の日」】やっぱり厚くて重い本が一番面白い!? 第2回「鈍器本」ビブリオバトル!
――中国文学は最近SFが熱いですが、そういう要素はまったくない? 一ノ瀬「ないですけど、最後に弟が宇宙に行こうとして......これ以上はネタバレになるのでやめましょう。ぜひ読んで確かめてください(笑)」 長編海外文学という直球かと思いきや、近年話題作が多い中国文学という変化球! バトルがヒートアップしてきた! 《プレゼンター ③》三宅香帆 三宅「私の鈍器本は『立身出世と下半身』(洛北出版)です。副題が『男子学生の性的身体の管理の歴史』でして戦前の国家がどういうふうに男子学生の性的身体を管理していたかを書いている本です。例えば、自慰行為に対するイメージづけや、性病検査などを国がどう行なってきたかという歴史ですね。 明治時代に国が近代化していく中で、『男子学生には立身出世を目指させましょう』ということになるんですね。要は『結婚につながらない恋愛や、自慰行為などはやめなさい。 そんなことをしている暇があったら勉強しなさい』という壮大な国家プロジェクトが始まる。著者は社会学者で、当時の男子学生の日記や病気の検査記録などを調査して、この様子を書いています。 この本を読んで私がすごく納得したのが、森鴎外の『舞姫』の評価についてです。私はそれまであの小説のいったい何が素晴らしくて日本文学史上に残っているのかがよくわかってなかった。 でも、あの小説が描く『立身出世と結婚につながらない海外の人との恋愛』は、明治時代の人たちにとってはかなり"やっちゃいけない"こと。この本を読むことで、当時の『舞姫』の衝撃がよくわかりました。 あと、女性の性的身体については、どうやって性的に見られることを防ぐのかとか、それこそ『舞姫』などの作品でも、女性がどれだけひどいことをされていたのかといった観点で語られることは多いですよね。でも、男子も同じように性的身体に関する問題はある。 政略結婚なども、女性だけでなく男性の問題でもあります。こうした性的な抑圧というものは、女性だけでなく男性にもあったこと、そしてそれが国家の方針として進められていたということが、この本ではしっかりと書かれています。 鈍器本ですけど、目次から興味のある章だけでも読んでもらえたらいいなと思います。こういうところから、女性だけじゃなく男性の体にも光が当たるようになればいいなと思います」 ――ありがとうございます! では、ディスカッションです。 花田「ひと昔前の立身出世は、ひとりの男性がたくさんの女の人を支配しているイメージだったんですが、今お話を聞いたらけっこうストイックだったので意外でした」 三宅「たぶんそれは『大人になったらいいぞ』っていうことだと思います。立身出世してお金を持って結婚したら、それこそ妾を持っていい、と」