【11月1日は「本の日」】やっぱり厚くて重い本が一番面白い!? 第2回「鈍器本」ビブリオバトル!
まず、物語として単純にめちゃくちゃ面白い。帯とかでも推されているポイントなんですけど、悲劇と喜劇がオールインワンで、それぞれがすごく極端な描かれ方をしている。兄のほうはもともと聡明な人物なんですが、文革後に働いていた工場が倒産して失職してしまう。 その後は荷運びの仕事をするんですが、稼ぎが少なくなってしまって体を酷使して、どんどん潰れていく。一方、弟のほうも工場をクビにはなるんですが、自分で事業を立ち上げて、廃品回収のビジネスが大成功して巨万の富を築くんです。 そして下品な弟は、金にモノをいわせて『全国処女膜コンテスト』というのを開催して、中国全土のナンバーワン処女を決めたりする。兄も兄で、詐欺師まがいの人物と、処女のふりをしてその大会に参加したい人のために、『人工処女膜』なるものを一緒に売ったり......。 このように、兄と弟それぞれ壮絶な人生を送るんですけど、テーマはシンプルで、『幸せとは何か』という話なんです。何も持っていないけど心は満たされているという生き方と、すべて持っているけど心は空っぽだという生き方。 どちらがいいのかという問いを巡る、長大な寓話です。心だけは満たされている生き方をするのが兄で、物質的には満たされているのが弟というわけですね。 あと、この小説は第1部と第2部に分かれていて、さっき話したのは第2部の開放経済篇のエピソードです。第1部の文革篇も肝でして、ふたりの共通の記憶と体験の基盤として、すごくつらい描写が続くんですね。 圧倒的な悲しみとつらい記憶がふたりの中に存在していて、その後ふたりの人生は擦れ違っていきますけど、最後にそこをつなぐ糸みたいなものとして、文革の記憶と体験が存在している。このあたりは、権力や時代の趨勢を超える人間の強さみたいなものを感じるし、長編だからこそ描けるものだと思います」 ――ありがとうございます! 質問のある方は? 花田「『感動』とか『悲しさ』ってけっこう世界共通のような気がするんですけど、海外の『笑い』の感覚って難しいイメージがあります。喜劇的なところもあるということですが、けっこう笑えましたか?」 一ノ瀬「そうですね。悲しい描写は、読みながら私も泣きました。喜劇の部分も幼少期の兄弟のやりとりなんかがけっこうコミカルに描かれていて、笑えます。そして突然文革で暗い時代になる......という、そこの落差がすごいですね」 三宅香帆(以下、三宅)「時代ってどれぐらいのスパンで描いてるんですか?」 一ノ瀬「1960年代から2000年代前半までですね」 三宅「けっこう最近まで描かれてるんですね!」