「隠さなくてはいけない」と思い込んでいた――子のカミングアウトに親はどう向き合う? #性のギモン
寝耳に水――でも、絶対にこの手を離してはいけないと思った
トランスジェンダーの当事者は、外科的手術や戸籍上の性別変更を望む場合もある。トランスジェンダーとは、持って生まれた体の性と、心の性が一致しないこと。自身の認識する性別が男性/女性だけでなく、中性や無性と言われるXジェンダーもトランスジェンダーに含まれる。ホルモン投与による外見変化は受け入れても、手術をして性別を変えることに対しては、受け入れられない親も少なくない。 「長女から『性同一性障害で、これからは男として生きていく』とカミングアウトされた瞬間、幽体離脱したみたいに意識がぱーんと抜けて。脳を言葉が素通りしていく感じでした」 そう語る横山理恵さん(仮名、70代)は、今から17年前、子どもが21歳の時にカミングアウトされた。子ども時代はフリルのスカートが大好きで、お絵描きではお姫様を描くような子だったので、男として生きたいと言われても、にわかには信じられなかった。中学の頃からボーイッシュな雰囲気になったけれど、一時的な‶気の迷い″と思ったという。 「手術をするし改名もしたいと言われ、夫が『親が心をこめてつけた名前を何と思っているんだ』『五体満足の身体にメスを入れるなんて』と感情的になってしまい――すると、『こんな不満足な身体で長生きしても意味がない。太く短く生きる』と、猛反発されたのです」 普段はおっとりして穏やかな子が、強い口調でそう言ったことに衝撃を受け、横山さんはとりあえず「わかった」と答えた。 「本当は何もわかってはいませんでした。ただ、ここで物別れになったら、この子は私たちと縁を切るのではないか。最悪、自殺してしまうかもしれない。そうなったら取り返しがつかないので、絶対にこの手を離してはいけないと思ったんです」 横山さん夫婦は、子どもが持ってきた性同一性障害に関する本を読み始めた。そして、「私たちもちゃんと勉強するから。あなたが男であろうが女であろうが、大事な子どもであることは変わらない。もし世間があなたの敵になっても、私たちはあなたの味方よ」と子どもに告げた。そうは言うものの、夫は苦しみ、3カ月で10キロ痩せた。 それからはわからないことや疑問に思ったことは子どもに尋ね、耳を傾けるように。現在に至るまで、親子関係は良好だ。