中国版MeToo運動で「告発される人」と「決して告発されない人」の決定的な違い
中国では「反スパイ法」に基づき外国人が逮捕されるケースが相次いでいる。2017年にアメリカから始まり世界に広がったMeToo運動も、外国勢力と結びついているとしてスパイ活動と同等と見なされ、中国政府による厳しい取り締まりの標的となっている。その一方で、政府に対して批判的な立場をとる人物が告発された場合は、都合よく黙認されることもあるという。※本稿は、中澤 穣『中国共産党vsフェミニズム』(ちくま新書)の一部を抜粋・編集したものです。 【この記事の画像を見る】 ● スパイ活動と同一視される 「西側の価値観」MeToo運動 中国ではもともと、女性の権利を語ることは「西側の価値観」とみなされる傾向があった。 性暴力被害を訴えるMeToo運動や女権主義は広く関心を集めた半面、「境外勢力(外国勢力)と結託して国家分裂をたくらんでいる」などとして、ネット上などでより激しい中傷や攻撃にさらされるようになった。複数の女性活動家が、夜中に見知らぬ男から電話が来て脅迫されたりすることは珍しくないと話す。 欧米や西側の価値観だとしてフェミニズムを排斥することは、なにも中国の専売特許ではない。MeToo運動が主に米国での盛り上がりを受けて日本や中国に波及したのも事実であり、当事者や支援者に対して「外国勢力と結びついている」「米国の流行に乗っただけ」などと批判を浴びせることは、運動の勢いを削ぐ効果が大いにあるだろう。 一方で中国での「境外勢力」という言葉には、「スパイ」とほぼ同じような強い指弾の意味も含まれる。 習近平政権は、なによりも政権の安定を重視しており、NGO関係者のほか人権派弁護士や記者などを弾圧してきた。こうした人々が中国の安定を脅かすという考えの背景には、共産党政権と異なるイデオロギーや思想が影響力を持つことへの強い恐れがある。
ある女性活動家は、匿名で引用してほしいと念を押した上で「共産党政権には自分たちの安全に対する自信が極度に欠けており、自分たちと異なるいかなるものも警戒する」と指摘し、「男女平等は共産党のイデオロギーとも一致するはずだが、彼らはそう考えていない」と続ける。ちなみに中国当局は「女権」「女性の権利」といった言葉は使わず、「男女平等」という用語を好む。 ● 社会の不安定要素として危険視 MeToo運動への強まる圧力 習政権は「党の話を聞き、党とともに歩み、党に感謝する」というスローガンを掲げ、あらゆる面での党との完全な一致を求めるが、当然ながら女権主義と党の不一致は小さくない。 李麦子氏(編集部注/2015年の国際女性デーの前夜、公共交通機関でのセクハラへの抗議活動を計画したとして、ほか4人の女性活動家とともに警察に拘束された)は「私たち女権主義者は、国をよりよくするためにたゆまぬ努力を続けなければならない。そうした意味では愛国主義者であるが、政府がやることすべてに無条件に拍手を送る類いではない」と訴える。