中国版MeToo運動で「告発される人」と「決して告発されない人」の決定的な違い
● 政府に批判的な人物への MeToo運動は黙認された こうしたNGO関係者やジャーナリストに対する告発は、ネット上から削除されることはなかった。政府に批判的な人物を貶める結果となるだけに、当局側が黙認した可能性がある。 共産党政権は、「公益圏」と呼ばれるNGO活動などに対する締め付けを強めており、MeToo運動は「公益圏」にとってさらなる打撃となった。 一方でMeToo運動にとっては皮肉な形ながらも、声を上げる空間を確保することにつながった。 「公益圏」関係者は「中国社会全体の利益や民主化など大局を見ていない」などとしてMeToo運動を批判することもあったが、こうした構図は、海外に逃れた民主化運動の指導者である王丹氏らが2023年にセクハラの告発を受けた際も再現される。 ただ2018年後半にはそうしたNGO関係者らに対する告発の動きも失速した。
7月に最高潮に達したMeToo運動の勢いに対して、当局の監視や圧力がさらに強まったことが背景にある。黄雪琴さん(編集部注/中国の女性活動家・フリー記者。国家政権転覆扇動の罪に問われ、2024年6月、広州市の裁判所から懲役5年の実刑判決が言い渡された)も当局からMeToo関連の活動をやめるように求められていたという。 米国拠点のネットメディアによると、ある警察官は黄さんに「MeTooは境外反中国勢力による破壊活動だと認定された。発信者はいずれも国外で長年生活し、標的としたのは中国の長江学者(編集部注/国家最高の学術賞「長江奨学賞」を授与された、国内トップレベルの研究者たち)であり、中国の学術制度を攻撃しようとしたことは明らかだ」と話したという。 2018年前半の一連の告発の中で、体制内の政治家や官僚などが告発を受けることはまれだった。当然、政治家や官僚が清廉潔白であることを示すわけでなく、体制内の権力者を告発する声がさまざまな形で抑えつけられているとみるべきだろう。中国のMeToo運動のひとつの限界ともいえる。
中澤 穣