残念だが…1月にウクライナ戦争は「リベラリズム」から「リアリズム」に変わる
1997年ウクライナの記憶
かれこれ30年近く前になる。1997年夏のある日、私はウクライナ中部ドニプロ市にあるミサイル工場「ユジマシ」を訪れていた。核を搭載できるロケットの解体作業を視察するためだった。 「21世紀のゴジラ」トランプは、中国を踏み潰すなら「中国の失敗」に学べ! ユジマシとは、南部機械組立工場の略称で、モスクワから見て「南部」に位置したことは言うまでもない。かつて、そこは大陸間弾道ミサイル(ICBM)のおよそ4分の3を設計・製造していた旧ソ連屈指の名門工場で、時を経たいまは、ウクライナ国防省が欧米から先進的な部材を調達して兵器を製造している。 視察を終えて中庭へ出ると、弾頭を外されて無用の長物と化したアルミニウム製の巨大な筒殻が、いかにも所在なさげに陽光に晒(さら)されていた。見上げれば、まるで抜けたように高く澄みきった空に、ウクライナ国旗と並んで星条旗が翻(ひるがえ)る。翌日には、ワシントンからZ.ブレジンスキー元大統領補佐官が訪問することになっていた。
勢いづくロシア、士気衰えるウクライナ
今年11月のアメリカ大統領選挙は、トランプ候補の圧勝に終わった。アメリカ国民はバイデン大統領が後継者に指名したハリス副大統領ではなく、同大統領の宿敵ドナルド・トランプを選んだ。選挙期間中、トランプ氏はロシアとウクライナの戦争をすぐに終えると約束していた。 戦場は今、陣取りゲームの最後のキャンペーンに入っている。アメリカ大統領選挙の結果は、ロシア・ウクライナ両軍の士気に明暗を分けた。ロシア側は勢いづき、ウクライナ軍の士気は衰(おとろ)えかけている。 ロシア軍はウクライナ東部のドンバスで前進し、8月にウクライナ軍に占領されたロシア西部のクルスク奪還をめざして反攻をかける。ウクライナ側の戦意の衰えは、前線の塹壕(ざんごう)に潜む兵士のみに止まらない。英『エコノミスト』誌(11月12日号)は、ウクライナ国内における厭戦(えんせん)ムードの広がりと、ゼレンスキー大統領の求心力低下を報じている。
プーチンが旧ソ連の名門「ユジマシ」を撃った意味
与えられた時間は、アメリカの政権が移行する新年1月20日までと決まっている。バイデン政権末期のアメリカと、イギリス、フランスの両現政権は、ウクライナに供与した長射程兵器によるロシア領内への攻撃を容認した。アメリカはまた、これまで禁止してきた対人地雷の供与までをも表明した。 ロシアは、最新鋭の極超音速中距離弾道ミサイル「オレシュニク」を発射し、「冷戦終結の記念碑」ともいうべきユジマシに、マッハ11を超える速さ(ウクライナ国防省情報総局発表)で撃ち込んで、それに応じた。プーチン大統領が、ここにきてユジマシを標的として選んだことは、バイデン大統領に宛てた強烈なメッセージだったに違いない。 2022年2月、ロシアはウクライナに軍事侵攻し、冷戦終結後の世界に「乱世」を呼び込んだ。それが、冷戦の覇者アメリカの一極支配による「平和のルール」を真っ向から踏みにじる行為だったことは言うまでもない。 「ロシアに勝たせてはならない」 「われわれの結束は揺るぎない」。同じ3月、ベルギーで開催された北大西洋条約機構(NATO)臨時首脳会議のテーブルで、バイデン大統領は拳(こぶし)を振り下ろしながらそう言って、西側主要国と大西洋同盟を糾合して未曽有のウクライナ支援に乗り出したのだった。