FC東京ルヴァン杯Vの裏に長谷川監督が掲げた4箇条の規律
9シーズンぶりのタイトル獲得を告げる主審のホイッスルが、夕暮れが近づく国立競技場の上に広がる空に鳴り響いた直後だった。仲間たちに勝利を託して後半22分にベンチへ退いていたFC東京のキャプテン、MF東慶悟は込みあげてくる涙を我慢できなかった。 「去年苦しい思いをして、悔しい思いをして、ここ(決勝戦)には特別な思いもあったし、僕個人としても東京に来てからタイトルが取れなかったので……」 本来ならば昨年11月7日に行われるはずが、対戦する柏レイソルで新型コロナウイルス感染のクラスターが発生。新春4日に延期されていたYBCルヴァンカップ決勝をFC東京が2-1で制し、前身のヤマザキナビスコカップ時代の2004、2009シーズンに続く3度目の優勝と、2011シーズンの天皇杯以来となる通算4つ目のタイトルをクラブの歴史に刻んだ。 カウンターから4人を抜き去るドリブルでFC東京のFWレアンドロが前半16分に先制すれば、同終了間際に左CKからのこぼれ球を柏のMF瀬川祐輔が押し込む。その後は一進一退の攻防が続いた均衡を破ったのは、東に代わって投入されたFWアダイウトンだった。 後方からのロングボールを、柏のDF大南拓磨が下がりながらクリアした直後だった。誰よりも早く反応したFW永井謙佑が頭を合わせたボールはスルーパスとなり、山下達也、古賀太陽の両DFの間に割り込んだアダイウトンが、難しい体勢から執念で左足を伸ばしてヒットさせた。 勝ち越した時点で後半29分。指揮を執って3年目となる長谷川健太監督(55)のもと、FC東京が遂げてきた変化の跡がさらに示されたのは、6分のアディショナルタイムを含めた残り時間だった。 MVPに輝いたレアンドロが、本職のセンターバックではなくアンカーで起用された森重真人が、ともに足を攣らせながら歯を食いしばってプレーする。永井も後半45分に交代するまで自慢のスピードで何度もボールを追いかけ、柏にプレッシャーをかけ続けた。すべてにおいて長谷川監督が就任時に掲げたキーワードが具現化されていた。 「勝利への欲求や追求、あるいは探求といった部分をチーム全体に促していきたい。いろいろな部分で貪欲に、日々のトレーニングのなかで、もっともっと競争心をもって戦っていければ」 欲求と追求、探求に共通する「キュウ」で韻を踏んだキーワードの『優勝へのマルキュウ』を共有していくために、長谷川監督は日々の練習の徹底事項として、ガムを噛まない、ソックスを上げるなど試合と同じ服装とする、必ず返事をする、早めに練習場へ来る――の4箇条を言い渡した。