なぜ西武ニールの”不敗神話”が守られたのか?
劇的なドラマの余韻が残る試合後に「今日の試合は大きいどころじゃない。今日負けたらまずいというか、えらいことでしたよ。ニールが投げる試合なので」と、チーム内におけるニールの絶対的な存在感に言及していた辻発彦監督は、オリックス戦で摩訶不思議な感覚を抱いていた。 「ニールは負けない投手なので、追いついてくれるんじゃないかと。それを信じていました」 予感はすぐに的中する。6回裏の先頭、6番・中村剛也がまずはバックスクリーンへ2号ソロを豪快に打ち込んで反撃への気勢を上げる。さらにオリックスの2番手・増井浩俊を攻め立てて、二死二、三塁と一打同点のチャンスを迎えた場面で、左打席には2番・源田壮亮が入っていた。 メジャー移籍した秋山翔吾からキャプテンの大役を引き継ぎ、新型コロナウイルスの影響で約3カ月遅れた開幕に臨んだ今シーズン。4年目を迎えた27歳は、不動の2番を担い続けながらも極度の不振に陥っていた。 オリックスとの4回戦がプレーボールされた時点で、49打数8安打の打率.163。第1打席でも今シーズン初先発の右腕・榊原翼の前にセンターフライに倒れていた。ただ、四球をはさんで迎えた第3打席で中越え三塁打を放ち、続く森のレフトへの犠牲フライで先制のホームを踏んでいた。 「あれはたまたましっかり振ることができて、(打球が)いいところに飛んでくれたので」 試合後に思わず謙遜した源田だが、9-5の逆転勝利をあげた前夜には犠牲フライで今シーズン初の打点をマーク。さらにライト前、レフト前へと2打席連続ヒットを放っていた。
「少しずつ自分のタイミングで打てるようになってきているのかな、と思っていました。バッティングコーチにも気づいたことをいろいろと言ってもらって、自分のなかでも考えていることを伝えてきたことが、ちょっとずつ試合で出せたかな、と」 ほんのわずかながらでも上向きに転じつつあることを感じ取っていたのか。6回裏の場面では左腕・海田智行がマウンドに上がっていたが、辻監督は全幅の信頼を源田へ寄せる。 カウント0-2と追い込まれた3球目で、一塁走者のコーリー・スパンジェンバーグが果敢に盗塁を成功させる。二、三塁とチャンスが膨らんだところで内角に落ちるフォークボールへ必死に食らいついた。 源田本人をして「何とか(森)友哉に繋ごうと思って打席に入った」と振り返らせた一打は、レフト前へ弾む同点タイムリーとなってニールが負け投手になる可能性を消滅させた。 もっとも、その後に勝ち越されては意味がないし、不敗伝説も途切れてしまう。7回表からは開幕から「勝利の方程式」を担ってきた平井克典、新外国人ギャレットの両右腕がオリックス打線を零封。9回には昨夏から頭角を現した20歳の右腕・平良海馬も続き、今シーズンの防御率0.00をキープした。 「今年に限っては後ろがよくつなぎながら、0点に抑えてくれるので試合になる」 試合後に辻監督が送った賛辞は、数字にも反映されている。 開幕から13試合を終えた西武のチーム防御率はリーグ4位の4.12だが、先発の6人を除けば2.73にはね上がる。さらに北海道日本ハムファイターズとの開幕第3戦で1イニングともたずに6失点と炎上し、現在は二軍の左腕・武隈祥太の成績を除いたリリーフ陣の防御率は1.59という素晴らしい数字になる。