なぜ香川真司はJ復帰を蹴ってベルギー1部シントトロイデン移籍を決断したのか…「もっともっと進化したい」
立石CEOが言及した「全盛期の香川のイメージ」と、特にPAOKでの1年間は決して無関係ではないだろう。一瞬のスピードとクイックネスを駆使して相手のバイタルエリアを混乱に陥れ、自身がゴールを決めるだけでなく味方のゴールもアシストした、第1次ドルトムント時代を再現してくれるとPAOK側は期待した。 しかし、30歳を超えた香川の身体は、故障禍もあってなかなかキレを取り戻せない。ベンチ外が続いた今シーズンは、理想と現実のギャップに何度も思いを馳せたはずだ。現在地を客観視した上でプレースタイルを変える必要性も視野に入れた香川のもとへ届いたのが、コンバートを含めたシントトロイデンからのオファーだった。 まずはコンディションを万全に戻し、その上で日々のトレーニングを介して、ホラーバッハ監督をはじめとするコーチングスタッフに可能性をアピールしないといけない。もはや名前だけでは通用しない、高く険しいハードルがベルギーの地でそびえ立っている状況を理解した上で、香川は不退転の決意を込めてこう語った。 「海外でたくさんの経験をしてきたなかで、どちらかというと上手くいかないこと、厳しい壁にぶち当たることの方が多かった。その都度、僕はそれを乗り越えて、厳しい状況は人を成長させると僕は体現してきたつもりだし、だからこそいまの状況では終われない。何よりも大きく成長できる環境がヨーロッパにあると強く感じているので」 日本のDMMグループが2017年11月に経営権を取得したシントトロイデンは、日本人の若手がヨーロッパへ移籍し、ステップアップしていく上での窓口となってきた。 過去には冨安健洋(アーセナル)や鎌田大地(フランクフルト)、遠藤航(シュツットガルト)がプレーし、旅立っていった。今シーズンも日本代表経験のあるGKシュミット・ダニエルをはじめ、DF松原后、ともに東京五輪世代となるMF伊藤達哉、DF橋岡大樹、FW林大地、FW原大智と6人もの日本人選手が所属している。 ヨーロッパで6ヵ国目、延べ7チーム目で初めて日本人選手とチームメイトになる香川には、日本代表を含めて培ってきた濃密な経験を若手選手に伝える役割も託される。もっとも、それだけではないと香川は早くも胸を躍らせている。 「僕がそうであったように、若い選手たちは常に野心を持ちながらチャレンジしていると思う。そういう選手たちと一緒に切磋琢磨しながら、僕が教えるよりも得られるものがたくさんあるんじゃないかと。もちろん自分の経験から伝えられることもたくさんあるし、それらをみんなでシェアして、一体感を持ってこのチームを上に行かせたい」 復活を期す新たな年の初蹴りを、故郷・神戸で長友と行った。4大会連続のワールドカップ出場を目指す35歳の盟友から、エールと熱量を受け取った香川は13日に渡欧。メディカルチェックと正式契約をへて、18チームで争われるベルギー1部リーグで13位につけている新天地で、新たな可能性を切り開くチャレンジをスタートさせる。 (文責・藤江直人/スポーツライター)