地域振興?鑑賞?映画祭は何のため? 「若手監督育成」掲げる映画祭とは
クリエイター同士の交流にも一役
そういった関係を築くきっかけも、ある種、映画祭が作ったのだと思う。2015年3月、映画祭が主体となり、都内で「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭クリエイター交流会」を開いた。映画祭を活性化させていくための、運営側とクリエイターのギブ&テイクの場として、そしてクリエイター同士の情報交換の場として提供し、同映画祭出身の監督を多数招いた。代表してあいさつに立った中野量太監督は、 「なぜあなたが映画を撮れるようになったのか? と聞かれたら、この映画祭が見つけてくれたからと答えようと思っています。最初に見つけ、この機会を与えてくれたSKIPシティ国際Dシネマ映画祭に感謝しています。そのためにはこの映画祭にずっと存続してもらわないと困ります。かつてあった映画祭に見つけてもらったなんて、僕は言いたくありませんので」と語り、参集した上田清司埼玉県知事、奥ノ木信夫川口市長、当時の東京国際映画祭ディレクタージェネラル、椎名保らの胸を熱くさせた。特に東京国際映画祭関係者らは、映画祭と出身監督との関係性を羨むことしきり。この年からSKIPシティの映画祭オープニング作品を、東京国際映画祭でも上映する取り組みを始めた。 異なる出自だが、共通しているのは、映画祭への応募は、プロになるためということ。そのために選んだのがSKIPシティ国際Dシネマ映画祭だった。
「映画は上映してこそ」 持続可能な意義ある映画祭を目指して
「映像クリエイターの発掘と育成」を謳う同映画祭は、これまで映画のプロットを競うSKIPシティ×ユナイテッド・シネマ「Cinema Plot Competition」、受賞作を映画館で公開する上映支援「SKIPシティ Dシネマ プロジェクト」、業界各社との協業で映画の企画開発、制作、劇場公開までを一貫して支援し、商業映画監督としてのメジャーデビューをプロデュースする「デジタルシネマ製作支援プログラムD-MAP~D-cinema Making Associate Program~」、埼玉県とSKIPシティ 彩の国ビジュアルプラザによる「映画祭オープニング作品製作プロジェクト」など、プロになる作家を応援するプログラムを試行錯誤しながら打ち出し続けてきた。 しかし現在は「映画祭オープニング作品製作プロジェクト」以外、休止中。プロジェクトを継続させるにも資金が必要となる。同映画祭の運営資金は、民間企業の協賛金や入場料は言うまでもないが、県や市の負担金の額のほうが大きい。それゆえ、なんらかの“結果”も必要となる。ではあるが、すぐ見返りがあるかのように聞こえる地域振興を目的とするのではなく、映画祭の意義に賛同し続ける監督たちを、継続的に排出し、サステナブルな映画的環境を保つことが出来るのであれば、ほかにはないユニークな存在となるだろう。 映画祭の取り組みに対し、監督たちが声を揃えてその重要性を説くのは、“上映支援”のプロジェクトだ。作ることは自主的にできたとしても、自主的な映画公開にはデジタル上映ゆえのVPF(バーチャルプリントフィー)や宣伝、ブッキングなど高いハードルがある。結果を急ぐことなく、より意義深く、ユニークな存在となるためには、まずは取り組むべきプロジェクトの見直しから始めるのがポイントなのではないだろうか。 (取材・文:関口裕子)