「日本の多様性を守りたい」 地域に根付く文化をつなぐ「石徹白洋品店」
これをきっかけに地域のおばあちゃんに“たつけ”の作り方を教えてもらうと、端切れが出ずに無駄がない。お尻にゆとりがあり足裾が絞られているので動きやすくどんな作業でも動きやすい」。最初は同じ仕様で作ったが、「実際に着用すると不便な部分があり、ズボンと似せて使いやすくアレンジした」。その後、さらに地域に伝わる衣服をリサーチして“はかま”“かるさん”“越前シャツ”“さっくり”の5つアイテムが定番品としてそろった。
布も作る人も泣かなくていい服作り
石徹白洋品店のスタッフにはアパレル経験者が多い。例えば英国のコレクションブランドを経て入社したスタッフは「“たつけ”のリサーチで石徹白を訪れ、ゴミ箱に布が捨てられていないことに驚き、布も作る人も泣かなくていい服作りに感銘を受けて来てくれた」。アパレルブランドの多くは、サンプル作りに始まり、量産化したときは裁断くず、そして残反と布の廃棄物が多い(注:残反を利活用するブランドは増えてはいる)。それが毎シーズン続く。
主原料は綿と麻。綿はオーガニックコットンにこだわり綿織物のパノコトレーディングなどから、麻は滋賀麻工業から調達する。「残念ながら国産の原毛や糸を用いるのは現状難しい。紡績や織りからは可能な限り日本国内で作られたもので背景が見えることを重視している」。先染め、製品染めを工房で行う。自身で育てた藍や土地に寝付く草木を用い、鉄媒染(てつばいせん)、アルミ媒染で染める。「鉄媒染は廃材のさびた鉄を酢水で煮詰めて行い、アルミ媒染はアルミとミョウバンを用いている」。
縫製は「地元の方や同じ子育て中の方に依頼していたが、量が増えてきたので岐阜の松野縫製にも依頼している」。17年から年に1度、夏場にインターンをのべ5~6人受け入れている。「最低3週間石徹白で暮らしながら藍染めをしていただいている。石徹白を理解していただき、結びつきが強い交流人口が増えている」。石徹白洋品店で働くために移住したスタッフもいる。1人で始めた「石徹白洋品店」は、現在は平野店主を含む役員2人、正社員2人、業務委託契約を結ぶスタッフ2人、アルバイト6人が増え、現在はさらに正社員を募集している。「会社化して今年が8期目。5期まで赤字で厳しかったが6期目から黒字化できている」。