ハラスメント問題続出の映画界 白石和彌監督が問うアプデの必要性
このところ映画界でのハラスメントが話題に上ることが多いが、映画の業界内にあってそういった悪しき慣習が残る現場の改革や意識の刷新をうったえる人も少なくない。白石和彌(しらいし・かずや)監督もその一人で、クランクイン前にスタッフやキャストを対象としたトレーニング(講習)を実施するなどしている。そしてハラスメント問題のみならず、映画に携わる人々の意識や体制をアップデートする必要を痛切に感じているという。
スタッフ、出演者らにリスペクト・トレーニングを導入
「リスペクト・トレーニングと呼んでいるのですが、作品に携わる方には案内をして参加していただいている形です。海外ではトレーニングを受けないと現場に来ちゃいけませんとルール化しているところもあるので、いずれはそういう方向に持って行きたいのですが」 白石氏はそう説明する。トレーニングでは具体的にどんな言動なり行動なりがパワーハラスメント、セクシュアルハラスメントなどにつながるかがレクチャーされ、実際に現場でそうした被害を受けた場合にどんな対処方法があるのかみんなで話し合うのだとか。また、撮影期間中は自身がハラスメントを受けたり誰かが受けているのを知った場合にそれを伝えるホットラインも開設される。最新作となる阿部サダヲと岡田健史がW主演する映画『死刑にいたる病』(公開中)でもトレーニングが実施されたそうだ。
『映画は昔っからそうやって作るんだ』古きダメな習慣
「僕が映画界に入ったのは90年代ですが当時はまだ昭和の習慣が色濃く残っていました。僕自身は割と体育会系気質だったのでやって来れたんです。でも自分自身が監督になって考え方が変わったといいますか、周りを冷静に見れるようになったんだと思います。みんな作品のためとか監督のためとか尽力してくれるわけですが、その中でたとえば仕事が遅かったりしたとき誰かから怒られたり、ハラスメントに近い状態になったりといったことを監督というポジションから見聞きするようになって、こういう状況を変えたいなと強く思うようになったんです」 白石氏は1995年、中村幻児監督が主催する映像塾に参加し、その後は若松孝二監督に師事、フリーの演出部として行定勲監督、犬童一心監督などの作品に参加した。そして2009年、『ロストパラダイス・イン・トーキョー』で監督として長編デビューを飾る。 「だいたいにしてスケジュール的に余裕がなくなってくるとみんなイライラしてしまう状況が生まれてくるのですが、そんな状況のときにはハラスメントをしている人がいたとしても周りは気づかないか、あるいは『昔っからそうやって映画は作るんだ』みたいな古きダメな習慣みたいなものがあって見過ごしたりしがちなんです。でも、もうそういう時代じゃないし、実際若いスタッフが現場に入ってこなくなってきているので、映画界全体でこういう体質を変えないと本当に将来の担い手がいなくなるという危機感があります」