「妻の姿が見えなくなっただけで、不安で不安で」ロッキード事件の鬼検事、堀田力。夫婦二人三脚で二度の脳梗塞から一歩を踏み出す
◆リハビリと散歩で少しずつ機能が回復 明子 夫は、生活の基本的な機能が欠落したようで、着替えなど当たり前にやっていた日常的な動作がうまくできなくなりました。飲み物も、何を飲んだかをすぐ忘れるし、コップをどこに置いたらいいかもわからない。お手洗いに行く途中で、目的を忘れてじーっと考えていたり……。 力 もう、心細いなんてものじゃなかったですね。妻の姿が見えなくなっただけで、不安で不安で。こんな感情は味わったことがありません。あぁ、赤ん坊はきっとこんな気持ちなのだろう、と感じて。その状態が3ヵ月ほど続きました。 明子 でも少しずつ元気になって、半年後には車椅子に頼りながらも、ある程度歩けるようになりました。ところが23年6月、また倒れてしまって。 力 急に手の力が入らなくなって手すりがつかめず、しゃがんだまま動けなくなったんです。 明子 その姿を見て大急ぎで救急車で病院へ。2度目の脳梗塞でした。早期発見できたおかげで、投薬治療して2週間ほどで退院したんです。 力 妻には、いつも助けられています。 明子 介護は、するほうもされるほうも大変ですよね。最初に脳梗塞で倒れたとき、夫は不安と心細さから、熟睡できないようでした。私も臨戦態勢というか、いつどうなるかわからない気持ちでしたから、ゆっくり眠れなくて。 見かねたケアマネジャーの方が、「奥様の休養日も作ったら」と、夫にデイサービスを勧めてくださった。リハビリもしっかりやったほうがいいだろうということで、彼は機能訓練のデイケアに行くようになりました。
力 とくに高齢期の方は、骨折や病気をきっかけに寝たきりになる場合があります。私も寝ついてしまわないよう、いまもリハビリに励んでいる最中。 明子 最初はしぶしぶだったのよね。 力 そうだったかなぁ(笑)。週2回、個別機能訓練と集団機能訓練の両方に取り組んでいます。字を読むのは、個別機能訓練。一度に3つの文章を読み、その内容を話すなどして。集団機能訓練は、体操などの身体的なリハビリ。おかげで、だいぶ歩けるようになりました。 明子 リハビリは身体的な機能の改善に加えて、脳の活性化にも役立っているようです。お仲間の名前も少しずつ覚えて会話もできるようになったからか、前ほどはいやがらないわね。(笑) 力 デイケアの日以外も、足腰の衰えを防ぐため、天気がよければ歩行器を使って毎日1時間半ほど散歩します。 明子 私の負担を心配して、上の息子が同居してくれています。夫の散歩も、いまは息子が担当。 力 散歩しながら町内の方々にご挨拶をしたり、立ち話をしたり。私は福祉の仕事を始める前から、地域で暮らす人たちがお互い助け合うことが大事と考えていました。評論家の樋口恵子さんと一緒に、介護保険制度を実現させる運動をしたり、最近は、子育て支援にも力を入れてきました。 自分が脳梗塞になっても、まだ、何かお役に立てればという思いは消えません。とくに、散歩中のちょっとしたふれあいであっても、つくづく「人間はすばらしい」と感じていますし、この体で生きていく意味を実感できたことに感謝しています。 明子 ご近所での散歩も、心身のリハビリに役立っているんですね。 (構成=篠藤ゆり、撮影=宮崎貢司)
堀田力,堀田明子
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