あなたの信じた「物語」って何ですか? 陰謀論に陥ったことのある人たちに聞いてみた 「社会への違和感」「よく分からない正義感」
一度動画を検索すると、関連の動画が次々と送られてくるシステムも教えられた。それを知り、われに返った。信頼できる仲間がいたことが、救いになったと思っている。 「陰謀論を信じる人の周りに、何でも話せる仲間がいるとは限らない。だからこそ、考える材料として、自分の経験を伝えていきたい」 大阪府内に住む50代の男性会社員も、ツイッターで米大統領選に「不正があった」という情報を浴び、信じ込んだ経験を持つ。 「インフルエンサーの投稿に注目していると、よく分からない正義感が芽生えてきた」。21年にトランプ氏が大統領に返り咲くという主張を「限られた人しか知らない真実」と受け止めた。 ツイッターに「真実」を書き込み、反論するアカウントはブロックした。しかし、トランプ氏が大統領に復活するとされた日は何も起こらず、大きな衝撃を受けた。 「うそに踊らされていたのか」。そう考え、反論してきた投稿を見返すと、信じていたことの矛盾点が浮かび上がった。「陰謀論を信じていた時は、真実を知ったという満足感はあったが、世間に広まっていないという不満も強かった」
陰謀論が、心の平安をもたらすことはなかった。「冷静にファクトチェックをすること」。それが、男性の学んだ「教訓」だ。 ▽コオロギ食、突然の批判に困惑 大阪市内のごま加工メーカー「和田萬」の社長、和田武大は、連日のように寄せられる電話やメールの対応に追われていた。2021年12月に、ごまと粉末状にしたコオロギを混ぜた「コオロギふりかけ」を発売してから、1年余りが過ぎたころだった。 問い合わせの内容は、どれも同じだった。「遺伝子を組み換えたコオロギを取り扱っているのか」。インターネット上には、ふりかけを「犯人扱い」する記述がいくつもあった。 供給元に問い合わせ、そうした事実はないことを確認した上で「一つ一つ丁寧に説明した」が、電話口からは「ネットに書いてあるのだから間違いないはずだ」と、執拗に問い詰められた。 1883年に創業した老舗の5代目社長である和田は、持続可能な開発目標(SDGs)の理念に共感し、会社の姿勢に反映させようとコオロギ食に注目した。ふりかけは順調に売り上げを伸ばしていたが、この時期を境に急激に下がり「ほぼゼロになった」という。