あなたの信じた「物語」って何ですか? 陰謀論に陥ったことのある人たちに聞いてみた 「社会への違和感」「よく分からない正義感」
コオロギ食は、栄養が豊富で人類の食料危機を解決すると注目され、数々の企業が参入した。だが、交流サイト(SNS)で批判が出され、経営破綻に陥るケースも出た。 批判の中には「コオロギを食べると電磁波で心身が操られる」といった、荒唐無稽な陰謀論もあった。 コオロギなどの昆虫食は「新たな栄養源」とされるが、見た目などから心理的な抵抗感を持つ人は少なくない。 「環境にいいからと昆虫食を推し進めることは、政府やマスコミが『えたいの知れないものを無理やり食べさせようとしている』といった陰謀論を生み出す可能性もある」。和田は、そう振り返る。 陰謀論に詳しいライターの雨宮純は、この背景を「価値観の対立」ととらえる。 「SDGsなど『意識高い系』の価値観を押しつけることに嫌気を感じ、反発と攻撃のロジックとして陰謀論が使われやすい」 昆虫食普及の目的の一つになっている人口増への対処が「最終目的は不妊化による人口削減」と曲解されることもあるという。
和田は、会社のイメージを守るためにも、コオロギふりかけの販売は中止せざるを得なかった。 「事実に基づかないうわさでも、見えないところで自分の健康が脅かされているのではという恐怖心が植え付けられると、払拭するのは難しい」と嘆息する。販売再開の見通しはないままだ。 ▽「1%のニュートラル」を 月刊「ムー」編集長に聞く 世界を操る「ディープステート(闇の政府)」や人工地震、人口削減計画といった、根拠に乏しい「陰謀論」が拡散し、真実だと受け止める人も少なくない。 45年の歴史を持つオカルト雑誌「ムー」で2005年から編集長を務める三上丈晴は「一つの考えが100%正しいと断言しないことが大切」と言う。その考えを聞いた。 ―陰謀論をどう見るか。 「政治家など権力を持った人間が平気でうそをつき、手段や行動を正当化するように、この世に謀(はかりごと)があふれているのは事実だ。陰謀は、人間の営みそのものと言っていい。そこからフリーメーソンなどの秘密結社が世界を動かしているという考えが出てきた。そうした陰謀史観と、最近の陰謀論とはやや性質が異なるのではないか」