「絶対に必要」と信じたが、解約──コロナ禍で“さよならオフィス”は現実となるのか【#コロナとどう暮らす】
オフィスがない状況に漠然とした不安感を持つ社員はいる。島田さん自身、社員と顔を合わせないまま働いていて、不安に駆られることがあるという。 「こないだちょっときつく言い過ぎちゃってしまった。落ちこんでないかな」 リモートワークでは、仲間の顔色、しぐさを十分に観察することができない。だから新しいオフィスは、社員同士のコミュニケーションに特化した場所にしたいという。社員を集めた会議、イベントができる。あるいは、ふらっと立ち寄って雑談できるような場にしたいという。固定費を削減したいから、作業場所はぐっと絞り込む。単なる作業場では意味がないからだ。
変化は数年がかりで大企業にも波及する
事業用不動産を専門に手がける「CBRE」が行った調査(対象は日本全国の317社)によると、「コロナ禍でオフィステナント賃貸の意思決定に影響があった」と答えたのは、約4割。オフィスの移転・新たな賃賃借契約が「変更・保留になった」と答えている。 確かにSNSで検索をかけると、「オフィスを解約し、フルリモート体制に移行しました」という投稿が目立つようになってきた。なかには、使っていた椅子やデスクなどの備品を気前よく無償譲渡する会社まである。 完全解約でなくとも、オフィスの縮小に踏み切った事例もある。社員数593人、名刺管理事業を手がけるIT企業「Sansan」(東京都・渋谷区)は、臨時のIR報告書で「新型コロナウイルス感染症の拡大による不透明な事業環境等を踏まえ(中略)オフィス賃貸借契約を一部解約することを決議しました」としている。
いま、静かに進むオフィス解約・縮小の動き。これを「チャンス」と見る企業も出てきた。 不動産ITベンチャー企業の「ツクルバ」(東京都・目黒区)は、この5月末からオフィス縮小を考える企業向けに、新たなサービスを始めた。同社アセットディベロップメント部・小野ちれかさんは、こう話してくれた。
「問い合わせは毎日来ています。多いのは社員数が数人から数十人規模の小規模事業者さんで、なかには数百人規模の事業者さんからの相談もあります」 オフィスを完全に引き払う事業者に対しては、ツクルバが運営するコワーキングスペースを紹介することもある。オフィス代わりに会社登記ができるし、ロッカーに物品や書類の保管もできる。自社の占有スペースこそなくなるが、賃料は削減できる。「もっと狭いオフィスに移りたい」という要望に対しては、ダウンサイズした物件紹介も行う。直近では、こんな物件を選んだ事業者がいたという。 「20人も入ればいっぱい。そんなバーの居抜き物件でした。作業スペースは狭くなったものの、今後はみんなが一カ所で働くわけじゃないから、問題はないとおっしゃっていました。バーならではの長いカウンターテーブルが、社内外のコミュニケーションを盛り上げるのにいいと喜んでおられました」 新事業を立ち上げた、ツクルバ代表取締役CCOの中村真広さんはこう言う。