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西田香織

「陽キャ」の陰で悩んだ――ナオト・インティライミ「僕だって弱音は吐きます」【#コロナとどう暮らす】

2020/06/21(日) 09:28 配信

オリジナル

シンガー・ソングライターのナオト・インティライミは、いつだって陽気なキャラクターでファンを楽しませてきた。独特な語感の名前がインターネット上でいじられることもしばしば。周囲からは「弱音を吐くのを見たことがない」という声もある。3度目のメジャーデビューから10年。持ち前の明るさと、コロナ禍でライブが中止となり「歌えない」現状について聞いた。(取材・文:Yahoo!ニュース 特集編集部、写真:西田香織)

ネットの「インティライミいじり」どう思う?

本人は「若いころだったら、精神的にくらっていたかもしれません」と言って笑った。

ナオト・インティライミの「インティライミ」は、ケチュア語で「太陽の祭り」を意味している。いまから15年ほど前、世界一周の旅の途中、自身が南米を旅しているときに思いついて以来、ずっと使ってきた名前だ。

メジャーデビューから10年。ライブの動員数も増え、2012年には紅白歌合戦にも出場。ドラマやミュージカルの舞台にも出演した。人気が全国区になったころ、インティライミという名前がインターネットの世界でひとり歩きを始める。本人はこう振り返る。

「女子高生の間で『受験生必見、ナオト・インティライミで覚える英語の前置詞』みたいなのを使い始めたんです。『ナオト イン ティラミス』『オン ティラミス』『ビトゥイーン ティラミス』みたいな感じで、ずいぶん名前で遊んでくれたんですよね」

取材はオンラインで行った

キャラクターもひとり歩きを始めた。

2017年、テレビドラマ「コウノドリ SEASON2」で、世の中の子育て中の女性たちをイラッとさせる会社員男性を演じた。妻の育児に対し、「おれも手伝うからさ」などと言ってしまう無理解キャラが当たり役になり、反響を呼んだ。ネットで「#うちのインティライミ」というハッシュタグをつけて、「うちのインティライミは(夫は)ゴミ出ししない」などと投稿する女性が続出した。

「SEASON1に出演した小栗旬さんは、『いい芝居だった証拠だよ』と言ってくれましたね。ネットには『サイコパスだなんちゃら』と書かれることもありました。(嫌じゃなかった? と聞かれ)いや、それが……確かに少し複雑な気持ちはありましたが、逆にありがたいなぁと思ってました。よくみんな、ここまで自分のことで面白がってくれるなぁ、っと。そして、ネットでの『ティライミいじり』って総体的にセンスがよくて面白いんですよね。よく思いつくな、すごいな、と。この名前を守ってきてよかったって思ってます」

ステージはいつも笑顔で盛り上げる。後ろ向きなことは言わない――。常に太陽のように明るい。そんなイメージとのギャップがネットでの「いじり」につながったのかもしれない。

あえてストレートに聞いてみた。「陽キャ」というイメージは、自分を苦しめることはなかったのか。

「元気印きつくない? って言われるのですが、いつもこうではありません。自分だって弱音は吐きます。それと、心の信号をキャッチすることもあるんです。自分、過去に心のSOSがキャッチできなくて、ひきこもりになった経験があります。今なら、このまま続けたら壊れちゃうなってキャッチできるようになった」

3度のメジャーデビュー、ひきこもりの経験

若いころ、いまのように余裕があるわけではなかった。実は3度もメジャーデビューに挑んでいて、過去2度のメジャーデビューは失敗に終わっている。

最初のデビューは大学4年生のときだった。インティライミという名前ともまだ出会っておらず、このときはとにかく売れなかった。

「音楽的に表現方法を知らなかった。引き算を知らなかったというか、肩に力が入っていて詰めこみすぎていて、思いが伝わらない。周囲の人への感謝も足りなかった」

周囲に「ビッグになってやる」と啖呵をきったものの、結果がついてこない。発売されたCDが店頭に並ばないこともあった。

「理想と現実のギャップがきつく、落ち込んでいる姿を見られたくなかったし、電話にも出たくなかった。8カ月間、ひとり暮らしの部屋にこもりました。才能もないし、やめようと考えていましたね」

ひきこもりをやめるきっかけは、自らの夢に掲げたワールドツアーへの思いだった。「ワールドツアーの下見」と称して、ナオトは2003年夏から1年半かけ、世界一周の旅に出ている。帰国後、2005年に2度目のメジャーデビューを果たす。このときのデビューも売れなかったけれど、1度目の失敗と、旅の経験でメンタルは強くなっていた。だから耐えて次へのチャレンジができたという。

ナオト・インティライミは自らを「旅人」とも表現する。旅は自分をリセットするときの大切な手段だという。

「大げさに聞こえるかもしれませんが、旅は自分にとって『革命』なのかなって。自分のなかで心の革命を起こすことで、また前に進んでいける。長い期間、海外を旅するのはタフさを求められるし、様々な出会いがあります。生命の危険に晒されることだってあります。そういう経験をすると、自分のなかでふきだまっていたものが整理できるんです。うまくいかなかった経験があっても、ポジティブに変換できるようになるんですね」

3度目のデビューを果たしてからは順調だったが、2017年から1年半、一切のスケジュールを白紙にし、再び旅に出て世界20カ国を回った。

音楽活動は順調だった。ただし、今度は押し寄せてくる仕事の量に心のSOSを感じ始める。このままだったらダメになる……という思いがあった。過密スケジュールに追いこまれ、ライブがつらいと感じる時期すらあったという。

「お仕事がどんどんやってくる。ありがたい話でした。でも……働き過ぎでしたね。夢を追っているはずが、ある時期から『追われている』という感覚が強くなってきた。アウトプットの連続でしたし、世間から自分が飽きられていることも実感し始めていました」

無人島で自分しかいなかったら、歌っていないかも

ライブもやらず、テレビにも出ず、CDリリースもせず、旅をしてインプットを続けたいま、メジャーデビュー10周年の節目を迎えることができた。ところが、今度はエンタメ業界が、新型コロナウイルスの感染拡大に大きな影響を受けることになってしまった。

昨年9月、海外の大手レーベル「ユニバーサル・ラテン」とアジア人で初となる契約を交わし「El Japonés」(エル・ハポネス)というスペイン語楽曲で海外デビューを果たした。次なる目標は海外ライブとし、その活動のためにこの1月からアメリカ、メキシコに行っていたのだが、滞在の最中で新型コロナウイルスが世界中に広がっていくのを目の当たりにした。

現地ではアジア人であるという見た目から、「コロナウイルス」と指をさされ笑われたこともあったという。

日本で広がっていく感染を知って、3月中旬に予定を早めて帰国した。この春以降、デビュー10周年のために全国ツアーやベスト盤の発売を予定していたが、その大半を来年に延期する決断を下した。「白紙」になったライブは50本を超える。

「頭を抱え、叫びたくなるときもありました。やっぱりね……ライブできないのがきつい。高校生の終わりにストリートライブを始めてから27年間、ずっとライブをしてきた。お客さんが2、3人しかいないころから、少しずつ少しずつ増えてきて、ありがたいことに、今ではドームライブまでやらせてもらえるようになった。ライブで成長させてもらってきたようなものですから、試合や大会を奪われたスポーツ選手のようですね……今は」

ライブでの一幕(提供:エンジン)

けれども、光も差してきた。

緊急事態宣言下の5月2日、ショートムービープラットフォームの「TikTok」で行った自宅からのチャリティー・オンラインライブは、初めての試みだったが、7万人が視聴した。

目の前に観客はいないものの、コメントはリアルタイムでどんどん集まってくる。離れた場所にいるはずのお客さんが、自分のところにギューッと集まってくるのを感じた。感極まって、歌いながら泣いてしまった。いま改めて、ライブの大切さをかみしめているという。

ナオトはライブへのこだわりをこう話すのだった。

「初めての武道館ライブでこんなことを言っているんです。思わず出た言葉でした。……皆さんがつらいのは知ってる。でも、つらくなったり悲しいことがあっても、いつでもみんなのパワースポットを用意して待ってる。ステージ上に用意して待ってるからいつでも遊びに来い」

どんなに明るく見えている人でも、笑顔でライブを観ている人でも、悔しいことや悲しいこと、寂しさなんかをみんな抱えている、と思うんですよね。そうした気持ちに寄り添ってあげたいな、といつも思っている。

ライブでの一幕。花道を歩く(提供:エンジン)

一方で自分は、「アーティスト」ではないとも感じるという。

「真のアーティストって、絵描きさんとか芸術家の方イメージなんですけど、世間の評価なんて関係ない。俺は、これを描くんだ。という硬派なイメージがあるんです。例えば、ライブに置き換えた場合、会場が盛り上がらなくても、オレたちはいい演奏だったからそれはそれでOK! っていう。そういうのに憧れはあります」

「でも、自分の場合は」といって、こうも続けるのだった。

「こっちがどんなにいい演奏をしても、会場が盛り上がらなかったら、それは失敗だと思ってる。会場に足を運んでくれた皆さんと一緒に、ライブはつくるものだと。お客さんがいで、初めて歌えるんですよ。いつもお客さんから力をもらっています。そして、それをまたみんなに返したいと思って歌っている。もし無人島に流れついて自分一人しかいなかったら、歌ってないかもしれません。でも、そこに猫が1匹ニャーッって来たら猫に向かって歌い始めるんじゃないかな」


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