なぜそこまで? ヤマト運輸や佐川急便のドライバーが平らな道でもタイヤに“輪留め”をする深い理由
宅配便のドライバーが集配車を路上にとめ、車両の周りをきびきびと動き回る様子はよく見る光景だ。その際、路面が平たんであってもタイヤの動きを止める“輪留め(輪止め)”を使っているドライバーもいる。三角形の輪止めをタイヤの前後に差し込む姿を見るたびに、記者は「なぜそこまで?」と疑問を抱いてきた。坂道ならば理解できる。ドライバーが離れている間に車両が勝手に動き出す〝自走〟を防ぐために輪止めは有効だ。でも、平たんな道では、AT車ならばPレンジとパーキングブレーキで十分に自走を防げるはず。ヤマト運輸と佐川急便に理由を聞いた。 【動画】こんな平坦な場所でも!?安全確認を徹底するドライバーさんの様子
佐川急便「平たんに見えても…」
佐川急便は「車種を問わず、ドライバーが車を離れる際は必ず輪止めを使用する運用になっている」と答えた。同社は「安全は全てに優先する」という安全目標を掲げており、ドライバーの乗降時にさまざまな安全対策を実施。降車時にサイドミラーをたたんだり、乗車時に車両を一周して周囲の状況を確認したり。また、車の鍵はワイヤーチェーンでドライバーとつながっていて、降車時には必ず鍵が車から抜けるようになっている。 さまざまな安全対策を実施しているのならば、なおさら平たんな道では輪止めはいらないのではないか。この質問に対し、「道が平たんに見えても、傾斜は必ずあり、僅かであっても車が動き出す可能性はある」と佐川急便。そのため、2014年に路面の傾斜にかかわらず輪止めを使用すると規定した。「車両が動き出して事故となるリスクに鑑み、輪止めを徹底させている」という。
ヤマト運輸「ヒューマンエラーは起こりえる」
ヤマト運輸長野主管支店(長野市)の宮坂昌治・主管支店長(58)によると、路面の傾斜にかかわらない輪止めの使用は安全対策として奨励されており、長野市街地では「徹底して実施している」。その大きな理由は「ヒューマンエラーを防ぐため」だ。同主管支店のドライバーは1日で平均200戸を訪れるので、「1日に何百回もPレンジとパーキングブレーキを使い続けるうちに、使ったつもりでも使っていなかったミスは起こりえる」と宮坂さん。 輪止め以外の安全対策も、ヤマト運輸はたくさん実施している。降車時の鍵抜き、サイドミラーをたたむこと、乗車前に車両を一周する安全確認などだ。また、特に意識すべき対象として「子ども、自転車、老人、オートバイ」を挙げ、それぞれの頭文字を取って「コジロオ君」と呼んで、注意喚起に努めている。 ヤマト運輸の長野駅前営業所(長野市)に勤める芝波田和平さん(34)は、ドライバー歴5年目。数多くある安全対策に対して「絶対に手を抜かない」と話す。「楽をするのは簡単だけど、安全対策は地域の人のため、仲間のため、そして自分のためになる」。集配車は子どもたちに人気で、車の近くに寄ってくる子どももいる。3児の父でもある芝波田さんは「もし自分が安全対策を怠って、誰かが事故に遭えば最悪の結果になる」と常に意識しながら働いているという。
ドライバーに感謝
ヤマト運輸は、全国に集配車が約5万台あり、約6万人が集配に関わる。佐川急便は国内で約2万6千台の集配車を保有し、ドライバーは約2万9千人。運送業全般では、より多くのドライバーが働いている。家に届く荷物、店舗に並ぶ品の一つ一つは、一人一人のドライバーの安全運転とともに届けられている。そのありがたみを感じつつ、記者も車を運転するドライバーの一人として、万が一を想定した安全運転を心掛けたいと改めて思った。