「イスラム国」崩壊後のイラク 隔絶された妻たちの今 過去から逃れ 行き着いた場所 #ニュースその後
ワークショップの最後に連絡先を交換する女性もいるという。 「イスラム国」関係者の妻だった女性にも変化は起きる。強制されて「イスラム国」に従っただけであったとしても、過去の洗脳と現状との間で新しい人生に踏み出せない女性もいる。しかし、このワークショップでの交流を機に、黒色のアバヤ(全身をゆったりと覆う衣装)から、色付きのヒジャーブ(髪を隠すスカーフ)に変えたり、再婚に踏み出したりする女性もいる。「イスラム国」時代の過去との決別だ。
苦しむISの家族と地域住民の橋渡しに
この20年間、イラクで食料や医療などの緊急支援を主に行ってきた高遠さんは、2018年からイラク北部のクルド人自治区で生活している。 「イラク人とアメリカ人、(現在のイラクのイスラム教徒の約4割の)スンニ派と(同6割ほどの)シーア派など、対立する人たちを見て、平和構築や和解は本当に難しい、無理だと思っていました。けれど、日本で教育関係の人々と知り合い、演劇を使って平和構築に取り組む方法があることを知りました」
対立し、憎み合う人たちがいる時、相手の立場を想像する力が大切だ。演劇を通して本来の自分とは異なる役を演じることで、想像力を養う。違う立場の人の考えや経験を拒絶するのではなく、理解できるようにしていく。こうした「演劇教育」は、欧米などでは多くの学校で授業に取り入れられているという。 今後さらに「イスラム国」戦闘員の妻子や釈放された元メンバーが地域社会に帰っていけば、対立や疎外される問題もまた増えていくだろう。 高遠さんは、現地の学校やNGO関係者を対象に演劇ワークショップを「残りの人生をかけて」精力的に実施しようとしている。 イラクの人たちも前に進もうとしている。夫が「イスラム国」戦闘員だった前出の20代女性は「イスラム国」関係者という過去に苦しむ女性と地域社会の橋渡し役になりたいと考えている。 「いろいろと努力して、今の私の状況はだいぶ改善されました。だから今度は、私が平和のために地域の人たちと女性たちとの対話を広めていく力になりたい」
------------ 伊藤めぐみ(いとう・めぐみ) ライター、ディレクター。1985年三重県出身。2011年東京大学大学院修士課程修了。テレビ番組制作会社にてドキュメンタリーの制作を行う。2013年に映画『ファルージャ ~イラク戦争 日本人人質事件…そして~』を監督。同作により第一回山本美香記念国際ジャーナリスト賞、第十四回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞奨励賞を受賞。2018年には『NHK BS1スペシャル 命の巨大倉庫』でATP奨励賞受賞。2018年、イラク・クルド人自治区クルディスタン・ハウレル大学大学院修士課程へ留学。現在、フリーランス