「イスラム国」崩壊後のイラク 隔絶された妻たちの今 過去から逃れ 行き着いた場所 #ニュースその後
モスル出身の40代の女性は、「イスラム国」支配地域から子どもと一緒に近隣国へ避難し、長期間にわたって貧困に耐える生活を強いられた。夫は脱出できず、「イスラム国」の恐怖支配の中に留め置かれた。彼女は強い口調で言う。「『イスラム国』戦闘員の親から生まれた子どもは、生まれた時から一生『イスラム国』の人間。彼らの異常さは変わらない」 同じくモスル出身の30代の男性は、「イスラム国」から命を狙われ、公開処刑の場面なども見てきたとして、「イスラム国」関係者のことは受け入れがたいと言う。 「女性や子どもに罪がないという考えもわかる。けれど、家族が『イスラム国』に殺されていたら、関係者の妻子が近所に来ることは感情的に受け入れられない」
「イスラム国」に支配された町では、家族を失った人、障害を負った人も多く、破壊された建物ばかりの地区もある。今も戦闘の傷は癒えていない。 高遠さんもこれまで何百人もの「イスラム国」の被害者に会ってきた。それだけに、いまの活動には困難さも感じている。 「私が今、『イスラム国』戦闘員の妻子への帰還支援をしたいと思っていることは、イラク人の友だち全員には言えません。罪のない妻子であっても、いい感情を持たない人もいるからです」
融和に向けイラクで模索始まる新たな道
新たな道を探ろうとする動きもある。アンバール県では、部族長が「イスラム国」メンバーの妻子と地域住民の仲介役として動いている。部族長の一人、イブラヒム・マダンディ・アルガサニさんがこう表現した。 「メンバーの妻子を受け入れたくない、という住民はいます。そういう人たちには、『妻子の受け入れを拒否すれば、孤立した彼らは過激化し、将来的に問題は大きくなります』と説得していきます」 モスル周辺ではNGOの取り組みも行われている。NGOオデッサの代表のメイスン・イスマエルさんは、地域住民の女性と「イスラム国」関係者の妻だった女性が交流できるワークショップを開催している。 最初は「イスラム国」関係者の妻だった女性がいることを、地域の女性には伝えない。お互いが日々の暮らしや女性の置かれる立場の困難さなどについて話す。ある程度交流が進んだ段階で、出席者のバックグラウンドを伝える。 「地域住民側の女性はギョッとして、それまで仲良く話していた女性から体を離したりします。でも、まったく異質な存在だと思っていた『イスラム国』関係者の妻も自分と同じような問題を抱えていることを、同時に発見するのです」