「イスラム国」崩壊後のイラク 隔絶された妻たちの今 過去から逃れ 行き着いた場所 #ニュースその後
高遠さんは、このやり方では事態をさらに悪化させると懸念する。 「過去にも、刑務所に収容された人たちが過激化していった事例があります。国から拒絶・排除された状況で暮らし、社会に恨みを持つようになり、『イスラム国』支持に向かってしまうのです」 先例がある。2003年のイラク戦争後、米軍相手に武装闘争をした人たちが刑務所で他の過激な囚人と接触し、思想的に過激化していった。
イラク政府もこうした苦い経験を踏まえ、イラク国内のキャンプを閉鎖したり、シリアのアルホール・キャンプからイラクへの妻子の帰還を加速させたりしている。アルホール・キャンプからは2021年以降、6000人近くがすでにイラクへ戻った。帰還した人たちは、ジェッダ・リハビリテーション・センターと呼ばれるキャンプで3カ月から9カ月の間、脱過激化の授業や職業訓練などのリハビリを受け、かつて暮らしていたイラクの町に帰る。 しかし、キャンプから町に戻っても、その後の生活が平穏というわけではない。
離婚しても…地域住民から拒絶される家族
イラク西部のアンバール県出身の20代女性は、「イスラム国」に入っていた夫のことを振り返った。 「夫から『〈イスラム国〉に入る』と言われて、やめるように説得を試みましたがかなわず、彼は参加しました。その後、私は離婚しました。夫はとりわけ信仰心が厚いわけでもなく、真面目ないい人でした」 彼女は早い時期に「イスラム国」の支配地域から避難できたため、キャンプに収容されることはなかった。しかし、別の状況が彼女を苦しめることになる。 「イラク政府はデータベースに私の名前を『〈イスラム国〉戦闘員の妻』として登録していたのです。当時は離婚していたのに……。4年間、私は職を得ることができませんでした」 度重なる政府への訴えで、彼女の名前はデータベースから削除された。しかし、今でも周囲から信用されていないという感覚がある。 「私は何も悪いことをしていない。なのに、なぜ過去の配偶者の罪で責められなければならないのですか。私は誰かを傷つけたことはありません。平和に自分の生活を送りたいです」