「イスラム国」崩壊後のイラク 隔絶された妻たちの今 過去から逃れ 行き着いた場所 #ニュースその後
IS戦闘員の妻子も懲罰的にキャンプに隔離
「イスラム国」は、2014年にカリフ制国家(カリフはイスラム共同体の指導者)の樹立を一方的に宣言したイスラム教スンニ派の過激派組織だ。イラクやシリアで勢力を拡大し、一時は最大でイラクの3分の1の領土を制圧、シリアと合わせて3万人の戦闘員を抱えるまでに勢力を伸ばした。その支配は暴力的かつ残忍で、「イスラム国」に従わない人たちをはじめ、異教徒や外国人の人質らを斬首したり、焼殺したり、女性に性暴力を繰り返したりして、恐怖支配を行った。2015年1月末には日本人ジャーナリストの後藤健二さんと民間軍事会社の湯川遥菜さんも殺害された。 その後、イラク軍とアメリカを主体とした有志連合軍が大規模な軍事作戦を開始すると、「イスラム国」は次第に支配地域を失っていき、2017年7月にはモスルが陥落し、2019年3月にはシリアでの最後の拠点が制圧された。現在は、かつてほどの勢力はなく、国連の報告書によると、5000人から7000人規模での活動になっている。多くの戦闘員は空爆などで死亡したか刑務所などに収容されている一方、過去を隠して密かに生きている人もいる。
現在、イラクでは約3万人のアルカイダや「イスラム国」などの関係者(現地の法務省広報官への取材)、シリア北東部には約1万人の「イスラム国」関係者(アメリカのランド研究所のレポート)が収容されている。地元の関係者によれば、無実の人や、強制されて「イスラム国」に入った人たちもいるため、問題は複雑だという。だが、さらに扱いが難しいのが「イスラム国」メンバーの妻子たちだ。 女性たちの中には積極的に「イスラム国」を信奉した人もいるが、無理やり従うように夫に強制された人もいる。また「イスラム国」が支配していた頃の記憶さえない幼い子どももいる。そのような女性や子どもたちまで関係者として扱われ、懲罰的にキャンプなどに隔離された状態にある。 イラク国境に近い、シリア北東部にあるアルホールとロジという名のキャンプには、2023年秋現在、主に女性や子どもからなる5万~6万の人々が5年にわたり隔離されている。「イスラム国」掃討作戦が進められる過程で、多様な国籍の関係者の家族とされる人たちが収容されていった。ここでは彼らに移動の自由はなく、子どもたちは十分な教育を受けられていない。