父になった井上拓真が再起戦を“進化“示す圧勝劇…東洋太平洋王座を2階級制覇!
プロボクシングのOPBF東洋太平洋バンタム級タイトルマッチが14日、東京・後楽園ホールで観客の人数を制限した中で行われ、挑戦者の元WBC世界同級暫定王者、井上拓真(25、大橋)が王者のIBF同級4位、栗原慶太(28、一力)に9回2分25秒、負傷判定勝ちして新王者となった。拓真はスーパーフライ級に続き同王座の2階級制覇に成功した。実は、昨年、結婚して長女も誕生。新しい家族が応援に駆けつけた前での1年2か月ぶりの再起戦勝利だった。次なる狙いは、もちろん兄弟の世界王者。WBA同級スーパーとIBF同級の2つのベルトを持つ兄の井上尚弥(27、大橋)が4団体の統一を狙っている状況で拓真の挑戦機会は限られてくるが、その舞台へ上がるための再スタートを切った。
貫いた自分のボクシング
9ラウンド。井上拓真の右ストレートを浴びた王者の左目上の流血が激しくなった。レフェリーが両手を振って試合終了を告げた。1ラウンドに起きた偶然のバッティングによる傷が広がったのである。この場合、ストップしたラウンドを含めた判定での決着となり、8ラウンドの公開スコアで大きく差をつけていた拓真の勝利が、その瞬間に決定した。グローブをポンポンと二回たたき、ガッツポーズを作った。リングサイドの兄の前にきて、目が合うと、もう一度、ガッツポーズ。ジャッジの1人が90-81のフルマークをつけ、残り2人も89ー82とした圧勝にも、弾ける笑顔は浮かべなかった。 「テーマは自分のボクシングをすること。相手にに付き合わないで自分のボクシングを少しでもできてよかった。統一戦でやられて悔しい思いをした。やはり負けたくない。この試合は負けられないという思いが強かった。倒したかった?流れではそういう思いもあった」 あと3ラウンドあればKOで勝負を決められたという後悔と、15勝13KOのキャリアを持つ強打者を相手に勝利したという安堵感、そして進化の手ごたえ。それらが入り混じると、こういう顔になるのだろう。 最初から最後まで拓真が空間を支配していた。 試合は頭が激突して王者が左目の上をカットするというアクシデントからスタートした。 「リングを広く使って!」 父の真吾トレーナーから声が飛ぶ。 一発に破壊力がある栗原はプレッシャーをかけてくるが、拓真は、キレのあるステップワークを使って的を絞らせない。右へ左へと動きながらディフェンスの甘い栗原に対して左ジャブ、左フックを合わせた。ノーモーションの右。あるいは、距離によっては右のアッパー。タイミングを見計らった右のカウンターを狙ってポイントを積み重ねていく。拓真が動き回り、しかも、パンチを出す前に左が飛んでくるので栗原は、必殺の右を打ちたくても打てなかった。完全に相手の武器を封じ込んだのである。 「相手は右が強い。それだけは外したかった」と真吾トレーナー。