『燕は戻ってこない』原作者とプロデューサーが語る「女であることで受ける理不尽」と「ラベリングされる不自由さ」
2024年4月から放送された桐野夏生さん原作のドラマ『燕は戻ってこない』は、代理出産を軸に生殖医療ビジネスをめぐる倫理や女性の貧困等を描いた物語だ。ドラマのプロデューサーを板垣麻衣子さんが務めた。時代とともに女性の生き方は多様化したと言われる。しかしこと性と生殖に関しては、いまもままならぬと悩む人は多い。かつて過激な運動で、女性が自分の体を自分で管理する必要性を主張した女性がいた。新著の主人公に彼女を選んだ桐野さんが、板垣さんと語り合う(構成:篠藤ゆり 撮影:洞澤佐智子) 【本】桐野さんの最新作「ピル」をめぐる戦いを描いた「オパールの炎」 * * * * * * * ◆「こうなったら、すごいドラマを作ってやるぞ!」 桐野 2年前に上梓した『燕は戻ってこない』をドラマ化してくださることになって、板垣さんとは5回ほどお会いしていますね。 板垣 私は桐野さんの作品が好きでよく読んできましたので、『燕は戻ってこない』は絶対いいドラマにしたい、と思いました。 桐野 打ち合わせをするなかで、『燕は戻ってこない』に取り組む気持ちを「復讐心です」とおっしゃったことがありましたね。とても印象的でした。 板垣 そんな話をしましたね(笑)。私はドラマを作る際、プロとして「いい作品にしよう」というモチベーションを第一にしていますが、それとは別に、個人的なモチベーションも持つようにしていて。 小さいことで言えば、「今日頑張ったら、おいしいビール飲むぞ」とか「この撮影が終わったら、あの靴を買おう」とか。『燕は戻ってこない』に関しては、それが復讐心でした。 桐野 最近、ある新聞記者の方と話していたら、「映像の世界では、監督が女性だと、照明さんや音声さんが言うことをきかないということがまだある」と聞きました。 文芸もひとつの社会ですから、なんらかの差別やハラスメントはあります。なので、ふと板垣さんの口にした「復讐心」という言葉を思い出したんですよね。 板垣 20代の頃は女性というだけでからかわれることもありましたが、年齢とともに立場も変わって、そういうこととは無縁になったと思っていました。男性と遜色なく働いてきたという自負もありましたし。 でも『燕は戻ってこない』の企画を会議に出して通ったあと、男性の先輩が「あいつはフェミニストだから」と言っているのをたまたま聞いてしまって。 桐野 それは腹が立ちます。 板垣 最初、私はものすごくショックを受けたんです。そう見られていたんだ、と思って。ジェンダーに関係なく働いてきたつもりだったけど、周りの目はそうじゃなかったんだと悲しくなりました。 桐野 その気持ちはよくわかります。自分の書きたいものを書いてきただけなのに、私も「女性作家枠」とか「フェミニスト枠」とか、なにかしらの枠に勝手に入れられるのが常でした。作品ではなく、私個人がラベリングされる。これはとても腹立たしいことですよ。