多くの人が「勘違いしている」かもしれない…登山のトレーニングは「事故を起こさないため」という、じつに納得の事実
山でのトラブル防止をトレーニングの目標に
山で役立つトレーニングをする、ということをもう少し考えてみます。まず、山で役立つとはどういうことでしょうか。 本記事で想定している一般的な登山でいえば、山での疲労やトラブル(以下、まとめてトラブルと呼びます)を起こさないようにすること、といいかえられます(拙著『登山と身体の科学』でも、数章を割いて詳しく解説しています)。もっと正確に言えば、「自分」が山で起こすトラブルを防ぐことです。 この点をはっきり意識して、トレーニングに具体的な目的を持たせて行うことが、成功の鍵です。そのために、図「中高年登山者の身体トラブルの発生状況」を使って次のようなチェックをしてみてください。この図は、約4000人の中高年登山者のトラブル発生状況を示したものですが、若い人でも傾向は同じです。なお、ここでも4大トラブル(過去の記事*でも取り上げました)が上位に来ていることがわかるでしょう。 *過去の記事:平地だったら「転ぶだけ」と思いがち…じつは、山での「下りで脚がガクガク」は、「滑落事故」につながっている「驚愕のデータ」 この図を見て、自分がいま山で悩まされているトラブルにマルを付けてみてください。 次に、 1. 自分が山で行っているトラブル対策(歩き方や行動適応)は役立っているのか?2. ふだんのトレーニングはトラブルの防止に役立っているのか? と考えてください。 もしも十分に役立っていないと感じた場合には、2~5章で学んだことや、前記のトレーニングの4原則とも照らし合わせながら、 3. なぜ役立っていないのか?4. どう改善すれば役立つようになるのか? と考えていきます。 自分の現状を、このような順序で改めて振り返ることで、どこかに盲点があることに気づく機会となります。たとえ盲点を特定するところまでは行き着かなくても、今の状況を改善しないといけない、という意識は持つことができます。そうすることで、改善のきっかけをつかみやすくなります。トレーニングメニューを羅列したリストを見る以前に、まずこのような自覚を持っておくことが大切なのです。 * * * 次回は、登山のためのトレーニングの目的、そしてトレーニングにおいて大切にするべきこと、についての解説をお届けします。 登山と身体の科学 運動生理学から見た合理的な登山術 安全に楽しく登山をするために、運動生理学の見地から、疲れにくい歩き方、栄養補給の方法、日常でのトレーニング方法、デジタル機器やIT機器の効果的な使い方などをわかりやすく解説。豊富なコラムで、楽しみながら知識が身につけられます!
山本 正嘉(鹿屋体育大学名誉教授)