「思っている以上にウクライナは日本を評価していた」 前駐ウクライナ大使が明かす開戦時のリアルとゼレンスキーの卓越した能力
ゼレンスキーの根回し
当然、ゼレンスキー大統領は事前の根回しもせず突拍子もなく「勝利計画」を公表したわけではありません。9月の下旬から10月にかけて、バイデン大統領を皮切りに、候補者であったカマラ・ハリス氏やトランプ氏にも計画の内容を説明。また、アメリカの次に重要なヨーロッパの4カ国、具体的にはイギリス、フランス、イタリア、ドイツに話をつけ、10月半ばになって他のEU諸国にも説明を行った。 さらにアメリカの大統領選の直後にはトランプ氏と電話で会談を、12月に入ってからはパリのノートルダム寺院再開記念式典に合わせて、マクロン仏大統領も入れて対面の三者会談を行っている。 それに加えて、ウクライナの外交・安全保障担当のチームが訪米して、来るトランプ政権で安全保障担当補佐官に就くマイク・ウォルツ氏、ロシア・ウクライナ問題の特使に指名されたキース・ケロッグ氏、国務長官となるマルコ・ルビオ氏などと意見交換しているのです。
バイデン大統領に不信感を抱いた人も
このような経緯を見る限り、トランプ政権が今後、ウクライナを見限るようなことはまずないだろうと思います。むしろ、戦争を終結させたいという点でゼレンスキー大統領とトランプ氏は意見が一致しており、ここへきて初めてウクライナとアメリカのベクトルが重なったという印象すら受けます。正直、このような感覚はバイデン政権では得られなかったものです。 トランプ陣営は大統領選のさなかこそ、いろんな人が好き勝手に発言したのですが、大統領選後は次第に発言が慎重になっていっています。ウクライナ問題についても、先ほど挙げたウォルツ氏、ケロッグ氏、ルビオ氏しか発言しなくなっていっている。そしてこの三者に共通するのは、反ロシア・親ウクライナの傾向が強いということなのです。 さらに、前回のトランプ政権で、それまでのオバマ政権と打って変わって、クリミア紛争で揺れるウクライナへの武器供与を開始したという事実もあります。 また、そもそもこの戦争の始まりを振り返ると、ロシアのウクライナ侵攻にとって「ポイントオブノーリターン」となったのは、21年12月7日に行われたオンラインでの米露首脳会談でした。この会談後、バイデン大統領はマスコミから聞かれて「ロシアとウクライナの問題にアメリカが軍事介入することはない」と明言してしまいました。プーチン大統領がウクライナ侵攻を決めた背景にこの発言があったのは明らかで、ウクライナ側にはバイデン大統領に不信感を抱いた人も少なくないのです。