「思っている以上にウクライナは日本を評価していた」 前駐ウクライナ大使が明かす開戦時のリアルとゼレンスキーの卓越した能力
ゼレンスキー大統領の卓越した能力を確信
私には大使在任中、何度かゼレンスキー大統領と直接会って話す機会がありました。ある時彼から聞かれたのが、日本が第2次世界大戦に敗れた後、焼け野原からどのように国を再建し復興を遂げたか、ということでした。 敗戦後、復興のためにどのような役所を設け、どのような法律を作ったのか、人材育成はどうしたのか……。また、毎年のように発生する地震や水害などの自然災害に対して、例えば東京の中央政府と被害にあった地方自治体とがどのように協力しているのか。自分たちでは気づきにくいですが、敗戦や頻発する天変地異を経験している日本は「復旧・復興」の具体例をパッケージで提供できる数少ない国であり、大統領は失敗例も含めて、その経験とノウハウに非常に興味を持っていました。 ご存じの通り、ゼレンスキーという人はもともと役者です。その経験があるからか、彼は戦時下においてどのように振る舞えば部下や国民の心を奮い立たせることができるかをよく分かっているようでした。一方で、自分が外交や安全保障、貿易や金融といった政治の専門知識に長じているわけではないことも、しっかりとわきまえている。 大統領に関するそんな人物評を彼の側近にぶつけてみると「彼は役者であると同時にプロダクションの社長でもあるんだ」という答えが返ってきました。つまり、彼は集まってくる人材の「才能(タレント)」を見抜く力に長けていて、人材を適材適所で使うことができるのだと。 ゼレンスキー大統領のそのような特徴は、政府内のドメスティックな人材登用に限らず、国際支援の枠組みにも生かされているように思います。彼はどの国に何を頼めば最も効率の良い支援を受けられるかがよく分かっている。日本の復興の歴史について尋ねられた時、私はそれを確信しました。 〈すでに「終戦後」の復興にも思いを巡らせるゼレンスキー大統領。しかし、開戦から3年がたとうというのに、いまだ終戦のシナリオは見えてこない。そのような中で大統領が今年10月に公表したのが、北大西洋条約機構(NATO)加盟への正式な招待や、西側諸国から供与された武器によるロシア領への長距離攻撃の禁止措置の解除などを柱とした「勝利計画」だった。 ところが「勝利計画」公表の直後、ウクライナ最大のパートナー国であるアメリカの大統領選でトランプ氏が勝利。ウクライナへの支援に消極的ともいわれるトランプ氏の大統領就任は、戦局にどのような影響を与えるのか。〉