見た目がそっくりな「スダチ」と「カボス」、「ユズ」が父親の2種は何が違う?近年では魚の養殖にも使われる柑橘の歴史を解説
◆カボスが料理人に認められたきっかけは太平洋戦争 カボスの由来もはっきりしない。大分県臼杵(うすき)市乙見には、1695年(元禄8年)に稲葉藩の医師宗玄が、京都から持ち帰ったカボスを植えたという言い伝えが残る。 いつの頃からか稲葉藩では、藩士が薬用として家の庭で栽培するようになり、臼杵や竹田に広まっていた。 カボスの先駆者は臼杵市江無田(えむた)の板井秀敏である。板井は1937年に、ひとりカボスの生産拡大に乗り出した。 実際に栽培が増えはじめたのはそれから約20年後、1960年に、大分県の地域振興果樹に指定されてからだった。品種は、1973年に樹勢の強さで県が選抜した「大分1号」が中心だ。 匠だけの隠し味の素材であったカボスが、広く九州の料理人たちに知られるようになったのは、太平洋戦争がきっかけだったりする。 戦争中は米酢など使えない。酢の代用品としてカボスを使ってみたところ、予想以上にいける味だということに気がついた、という展開が起きたのだ。 博多のフグ料理や水炊きにも使われているポン酢には、カボス果汁も加えるのが秘伝のレシピとなっている。「香母酢」の表記にも納得だろう。 スダチもカボスも日本生まれで、父親はユズだ。見た目や使い方も似ていて不思議はない。
◆すでに身近なフルーツ魚(フルーツフィッシュ) 養殖魚を敬遠する人の最大の理由は、餌からくる臭み。それから脂肪分のしつこさだ。 フルーツ魚とは、柑橘類の果実を餌に混ぜて育てた養殖魚のことをいう。柑橘を用いる理由は、養殖魚臭と呼ばれる人工飼料由来の臭みの軽減に効果が認められているからだ。 事業化では、香川県の、オリーブの葉の粉末を混ぜた餌で育てたオリーブハマチに後れをとったものの、フルーツ魚の開発は高知大学農林海洋科学部海洋資源学科が先行していた。 2005年(平成17年)に技術開発を始めた高知大学では、ブリにユズ果汁を加えた餌を食べさせたところ、ブリの身からほのかに柑橘系の香りがすることに気づく。 柑橘には養殖魚のさっぱり感を増す効果があることを確認したうえで、2007年に試験販売したのが、鹿児島県長島町の東町(あずまちょう)漁協の「柚子鰤王(ゆずぶりおう)」である。 その後、大分県農林水産研究指導センターが県内の養殖業者と開発に取り組み、2010年の「かぼすブリ」にはじまり「かぼすヒラメ」「かぼすカンパチ」と、品揃えを増やしている。餌にはカボスの果皮と果汁が配合されている。 匂いに敏感な子どもや女性だとカボスの香りを感じられるそうだが、試食した私はどう頑張ってもその香りを見つけられなかった。