なんと「減量」どころか、「老化による体力低下」まで防ぐ…運動生理学で露わになった月イチ軽め登山「驚愕の運動効果」
軽登山の励行による健康の増進効果
佐賀県に金立山(きんりゅうざん・502m)という旧ふるい由緒を持った低山があります。ここに金立水曜登山会という市民団体があり、毎週水曜日に100名以上の会員が集まって、真夏でも雨の日でも、半日程度の「軽登山」を欠かさず続けています。たくさんの人が一緒に登るので、歩く速さもゆっくりとなります。彼らはこれをスロー登山とも呼んでいます。 軽登山という用語はこれ以後もときどき使うので、ここで説明しておきます。これは、ハイキングコースと呼ばれるような歩きやすい低山で行う、3~4時間程度の山歩きだと考えてください。累積の標高差で表すと、上り・下りともそれぞれ500mくらいの運動量となります。 図「健康面から見た軽登山励行の効果」は、会員の皆さんの生活習慣病についてアンケート調査をし、同年代の日本人の平均値と比べたものです。 生活習慣病は、代謝系の疾患であるメタボリックシンドローム(高血圧、糖尿病、脂質異常症など)と、運動器系の疾患であるロコモティブシンドローム(膝関節症[しつかんせつしょう]、腰痛、骨粗鬆症[こつそしょうしょう]など)とに大別されます。 水曜登山会の皆さんの有病率を見ると、それらすべてが同年代の一般人の値よりも大幅に低いことがわかります。
体力の増進効果はどうか
図「体力面から見た軽登山励行の効果」は、脚筋力と敏捷性(びんしょうせい・光反応時間)についての体力測定の結果です。男女とも、同年代の日本人の標準値と比べてかなり優れています。脚筋力では25%前後、敏捷性では30%程度優れるという結果でした。これらの図から、軽登山を励行すると、健康面でも体力面でも大きな効果が生じてくることがわかると思います。 体力測定については、毎年1回ずつ、計3回の追跡調査をしてみたのですが、多くの項目では変化が見られないか、やや改善したものもありました。この年齢になると、体力は毎年少しずつ低下していくのがふつうなので、軽登山の励行によってその低下が食い止められているのです。 いいかえると、軽登山の励行には若さを維持する効果があるのです。 次回は、まさに運動の「百薬の長」とも言える登山ですが、自分の体力や健康に合わせて登山スタイルを調整する「登山処方」について述べたいと思います。 登山と身体の科学 運動生理学から見た合理的な登山術 安全に楽しく登山をするために、運動生理学の見地から、疲れにくい歩き方、栄養補給の方法、日常でのトレーニング方法、デジタル機器やIT機器の効果的な使い方などをわかりやすく解説。豊富なコラムで、楽しみながら知識が身につけられます!
山本 正嘉(鹿屋体育大学名誉教授)