なぜ“投手”大谷翔平は進化したのか…制球力安定の裏にある「ショートアームアクション」と「ハイコックポジション」
もっとも大谷は、「メンタルではなく、メカニックだと思う」と制球力に必要な要素を挙げ、「メンタルによってメカニックが崩れるということはあると思うけど、メンタルが(制球力に)直結するということはない」と続けている。その上で、正しいメカニックで投げるポイントを「リリースを安定させるのは最後の最後。そこまでどうやってスムーズに動くか」と説明した。 「バッティングでいうなら、インパクトは最後なので、そこまでにどういう動きをするか」 意識するのは正しい順番だ。体の大きな部位から順に動かし、徐々に小さな部位へ力を伝えていく。しかし、どこかで無駄な動きや力が入ると、その順番が狂う。ヤンキース戦が典型で、大谷は試合後、「体の状態は、朝起きたときもかなりスッキリしていた。いい状態で臨めた」と振り返ったが、それが仇になった。 「逆にそういうときは力ずくで投げたりとか、そういう傾向が強い。逆に重いなぁ、ちょっとだるいなぁぐらいのときの方が、ゆっくり、ゆったり(体を)使えるときもある」 結果として球速を犠牲にしている側面はある。しかし、長いイニングを投げるには、“抜く”ことも必要。真っすぐが捉えられやすくなる可能性もあるが、フォーシームと非常に軌道が似通っているカットボールを覚えたことでマイナスを補っている。そのカットボールについては制球力同様、投手・大谷の今季を支えている大事な要素でもあるので改めて触れたいが、順番の話に戻すと、昨年春の段階で「緩やかに順序よく加速していけるかどうか」と話すなど、長く取り組んできた課題の一つでもある。 今年のキャンプでは、「腕の通るタイミング、踏み込むタイミング、(腕を)振るタイミング」を丁寧に確認。 ブルペンでは可能でも、実戦では相手が打席に入ったり、走者を背負ったりとタスクが増えるのでそれぞれにズレもあったが、5月半ばになって安定してきた。 テイクバックがコンパクトになったのもそうした試行錯誤の流れで生まれたものか。大リーグではショートアームアクションと呼び、ダルビッシュ有(パドレス)、トレバー・バウアー(ドジャース)、ルーカス・ジオリト(ホワイトソックス)らもそうだが、腕の振りをコンパクトにすることで、制球力が安定するという。その目的、効果を大谷が明かしたのは、8月4日(敵地でのレンジャーズ戦)のことだった。