俳優・佐津川愛美が「映画を作る人たちのインタビュー」をして気づいたこと
「椅子(お金がないので友達からもらったもの)」の意味
著書『みんなで映画をつくってます』の制作過程での“新たな気づき”は、ほかにもいくつもあったという。 「俳優が作品にかかわる時間は、作品づくりのほんの一部にすぎません。撮影の前段階のこと、編集作業のことなど、長年、映画業界に携わってきてもわからないことがたくさんあり、多く方の力が合わさって、1本の映画ができているということを改めて実感しました。だからこそ、人との関わりが重要ですし、そのなかで丁寧なコミュニケーションを取ることがよりよい作品づくりにつながっていくのだと思います。 美術の小林蘭さんは、資料として、とある作品の若い男女が住んでいる家の見取り図を見せてくれました。そこには、『椅子。お金がないので、友達からもらったもの』といったメモが書かれていて、『ここまで考えて準備してくれているんだ』と感動しました。それぞれが台本を噛み砕いて自分なりに設定を考えるので、もしかしたら俳優は自分で買った椅子という設定にしているかもしれません。それはそれでいいのですが、そこまで考えて準備してくれていること、その思いを知ることが大切だと感じました。 制作の守田健二さんから、ロケ場所を探す際、不動産屋に足を運ぶということを伺ったのは、ちょっとした衝撃でした(笑)。今まで想像したこともありませんでした。制作の方には、いつも現場でお世話になっていますが、撮影の前段階でも、さまざまな仕事をされているんだなあと改めて思ったものです。そういった、これまで知らなかったことを知ることができたことは今後の仕事にもいきてくると思うし、とても楽しかったです。 映画業界の方は、みなさん、『現場が大好き』と口をそろえます。私もそうですが、いい作品を作りたいというアドレナリンが出るんです(笑)。1年中、文化祭をしているような感じです。ただ、ギャランティーの問題など、好きを理由に搾取されるのは違うと思っていて、この本を通じて、そういった提言もできればと考えました」 では、改めて佐津川さんが考える映画の魅力とは──。 「冒頭でもお話ししましたが、映画業界について、『詳しくないと入れない』というイメージを抱いている方は多いと思うんです。たとえば、たくさん映画を観ていないと、映画業界を目指しちゃいけないとか。もちろんたくさん観ているのはすばらしいことですが、実際はそうでない方もたくさん働いています。私もその一人で、お金を自由に使えるようになった今でこそ、頻繁に映画館に足を運んでいますが、4人きょうだいで、その分お金もかかるので、子どもの頃、映画館にあまり行ったことがありませんでした。テレビで映画のCMが流れても、『テレビでやるのはいつかなあ』と思っていました。そんな私が『蝉しぐれ』で映画の現場に魅了され、今、俳優をしています。 映画業界にはそういう方もいっぱいいるよっていうことを知ってほしいですし、入ってから学べる世界です。また、「映画づくり」のあらゆる側⾯をたくさんの方たちに知ってもらえればうれしいです。同時に、誰もを快く出迎えてくれる素敵な空間である映画館に、ぜひ足を運んでほしいとも思っています」 ◇後編「14歳でスカウトからデビュー。佐津川愛美が新体操全国大会出場から俳優になるまで」でさらに深く話を聞いていく。 佐津川愛美(さつかわ・あいみ) 1988年生まれ、静岡県出身。2005年、デビュー作『蝉しぐれ』(黒土三男監督)で、ヒロインの少女時代を演じ、第48回ブルーリボン賞助演女優賞にノミネートされる。2007年には、映画『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』(吉田大八監督)で、第50回ブルーリボン賞助演女優賞と新人賞の2部門にノミネート。その後、さまざまなドラマ、映画に出演。主な出演映画・ドラマに『ヒメアノ~ル』、NHK連続テレビ小説『ちむどんどん』『サブスク不倫』『最後から二番目の恋』、『毒娘』(主演)など。近年は短編映画の監督も務めるなど、さらに活動の幅を広げている。
長谷川 あや(ライター)