食べる物は家族バラバラ…子どもは肥満や摂食障害に 食卓から見えた「個の尊重」への警告
家庭の食卓のありさまを定点観測してきた、大正大客員教授の岩村暢子さんがこのほど、福岡市で講演した。戦後重視されてきた「個の尊重」という価値観に、私たちはきちんと向き合えていたのか-。そう考えさせられる報告だった。 (特別編集委員・長谷川彰) 【写真】岩村暢子著「ぼっちな食卓」(中央公論新社・1870円) 岩村さんは、かつて大手広告会社でマーケティング調査に携わる中、1960年以降に生まれた人々の価値観や行動はそれ以前の世代と異なり断層があると気付き、98年、主婦を対象に家庭の食卓調査を始めた。アンケート、1週間計21回の食事の記録写真と日記、詳細な面接を併せた「超定性調査」を重ね、首都圏の計240家族を分析。考察を計7冊の著書で明らかにしてきた。講演はそれを踏まえた問題提起だった。
■親も子もバラバラに
調査初期の5人家族の昼食が紹介された。休日だが父親は仕事で不在。小4から小1の3兄弟はコンビニのおにぎりやファストフード店のハンバーガー。母親は自分で作った焼きそば。「バラバラな時間にバラバラなものを食べていた」 母親は「カップ麺や冷凍食品などを買い置きしているが、子どもたちは自分の食べたいものがなければ、それぞれ好きなものを、持たせたお金で買いに行く」と説明。自由、好みを尊重し、自立と買い物の練習をさせているのだという。 同様の事例は「ネグレクトや虐待などなく、家計に何ら問題のない家庭」で普通に見られるとして、昔あった正しい姿からの「乱れ」ではなく、善悪の視点を離れた「変容」と捉え、それは何がもたらしたのか冷静に考えるべきだという。 象徴的な現象の一つは「共食」の衰退。生活の多忙化や多様化というより、親も子も空腹でなければ食べなかったり、お菓子で済ませたり。誰かに合わせて一緒に食べるより、各自のペース任せを容認・尊重する食事が常態となっている。 まず自主性、自由の尊重が言われ、意に沿わないことを押し付けられるのは嫌だから他者にも求めない。家族で食卓を囲んでも楽しいことが最優先だ。 これは「同席の食であって、同じ釜の飯を食べる共食とは異なる」。おのずと個々の好みに合わせて、パーソナルサイズの中食やレンジ調理できる簡便食品が、単身者向けではなくファミリーユースとして日常的に使われている。